REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #29 LINGERING GHOSTS

08/12/2016

不定期更新、写真家による写真集レビュー、今回は初登場、写真家の藤元敬二くんがSAM IVINのLINGERING GHOSTSをレビューしました。

パスポート風に塗装された表紙を開くと、中には顔が白く塗りつぶされた難民申請者達の肖像が続いていく。時には空虚さを、時には痛ましさを感じる程に白く引っ掻かれたそれらの肖像は、イギリスに暮らすアジア、アフリカ、中東など各国からの難民申請者達のもの。写真に施された白い傷は、社会的に不安定な立場に置かれた人々の心の傷を代弁する為に施されたものである。

制作者であるIvin氏は冒頭で「人間から目を取り去ってしまえば自己同一性は消え去り、そこに残されるものは影であり亡霊でしかない」と述べている。その点に於いては僕は同意できないけれど、彼の捉え方には、自身が育ったイギリスの至らない難民政策に対する皮肉も含まれているはずだ。そして同時に社会的弱者となった難民申請者達に対する同情をも表しているのであろう。

本の中に、コンゴ出身で１５年間難民申請中の男性の写真がでてくる。彼の顔中にも、写真集の中の他の人々と同様の数多の白い線や引っ掻き傷が走っている。まるで『亡霊』の様にも捉われうるそれは、視点を変えれば、社会に否定され、それでも自分を貫いて生きていくしかない宿命に対自した人間の決意や誇り高さの様にも映る。

難民申請者達の心は日々揺れ、その肖像からは孤独な人間が葛藤する様が見てうかがえる。それは多かれ少なかれ、現代社会に生きる私たちの多くが日々抱えながら暮らしているものと実は似ているのかもしれない。しかしやはり違いはある。そしてこの違いこそが、イギリス社会というフィルタを通してあぶり出される『亡霊』という烙印なのかもしれない。

藤元敬二（写真家）

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