REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #14 I AM ABOUT TO CALL IT A DAY

写真家によるRPS写真集図書室ブックレビュー、ちょっと最近アップの調子がいい感じで続いています。今回写真家の幸田大地くんが取り上げるのはビーケ・ディポーターのI AM ABOUT TO CALL IT A DAY。
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この一冊を眺めながら、このように人々の生活の中に入り込んでとられた写真が、なぜ作品として成立するのかという事について興味深く思っていました。
作品として成立するというのは、他人にとって面白かったり興味深かったりするものなのかと言い換えたほうがわかりやすいかもしれません。
アメリカのおそらく田舎の町を全くの部外者として移動しながら、その晩泊めてくれた家とそこに居る人々を撮影したシリーズがこの写真集として纏められたときに、つまりなんで面白いのだろうかという疑問がうかびあがりました。

画面的に面白いとかそういう事はもちろんわかるのですが、むしろこの一冊を作る為に選ばれてきた写真についてかなり面白さを感じます。なんと言うか、一番面白い部分がしっかりと選び抜かれて、ここに纏められているというような気がしました。
(一番面白い部分というのはあくまでも写真家にとってかもしれませんが、少なくとも僕はそれを面白いとおもったという事だという程度にとどめておきます….)

”写真に写る人々は、全くBiekeに気がついていないようすで一日を締めくくろうとしている、まるで写真家は目だけがそこにあり、姿はみえていないのではないかのようだ”

と紹介文が有りますが、むしろ写真家はそうする事で描かれるはずのものをちゃんと描き出そうとしているという感じがします。そして、それはやはりとても面白いものとして仕上がっているなと。だからこのシリーズは面白くできあがったんだと思います。
たぶん、こういう事に挑戦している人はすごくたくさん居ると思うのですが、それら作品が面白く(興味深く)なるか、それとも失敗するのかという境界線は、作家側が作品そのものが持っているものを理解できるかどうかということなのかなと思います。

Alec Soth的な「アメリカ」をどこか感じさせるのですが、でも、なんというかそこまで政治的なものを感じさせないドキュメンタリーという感じです。とはいうものの写真はその中に多くの情報を写し出していますし、その総合的なものが今その場所にある暮らしとか社会とかの断片を伺わせ、人々についての事実を立体的に浮かび上がらせるようにおもいます。

それぞれの被写体の人々が自分の部屋で見せる表情は、僕らが普段語るような「個性」とか「パーソナリティ」を必ずしも語っているとは言えないように見えます。どこかの誰かでしかなく、あるいは、僕たち自身かもしれないのだなと。でも、その場所に蓄積されてきている生活の跡や壁の飾り、落書きなどが強烈にそこに写る人たちの個性を描き出しているのは間違いないと思います。個性とは自覚するしないに関わらず、常に自分の外側にむけて発せられるメッセージということかもしれません。

一日を終えようというその瞬間に、人々は空っぽのような表情みせながら、自分のコアの部分をさらけ出しているわけで、なんというか、写真というのはそういうところが面白いなと改めて感じました。

幸田大地(写真家)

※ビーケ・ディポーターのI AM ABOUT TO CALL IT A DAY(署名入り)はRPSでも署名入りのお取り扱いをしています。ご注文はこちらから。

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これまでのフォトブックレビューはこちら

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