REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #26 津軽

04/04/2016

不定期更新、写真家による写真集レビュー、今回は写真家の富谷昌子さんによる「津軽」（小島一郎復刻・限定版写真集）です。富谷さん自身、青森出身、ご自身が立ち上げた自主レーベルの「HAKKODA」より出された「津軽」はこのレビューでもかつて登場しています。◎reminders photobook review #5 津軽／TSUGARU　レビュアー：木村肇（写真家）。
世代がはるかに違う写真家が、同タイトルで写真集を作っている、富谷さんはこの本をどう意識するのか。是非、この本こそ彼女にレビューをして欲しいと思いました。

12931222_10154147927055719_2927894618859322279_n

初版から50年の時を経て復刻された、津軽出身の方言詩人・高木恭造、小説家・石坂洋次郎、写真家・小島一郎の三人の共作による『津軽』。

この本の全体を暗示するかのような一編の詩から、ゆっくりと力強く、この物語ははじまっていく。

「枯草の中の細い路コ行たキア、泥濘サまるめろァ落でだオン。

死ンだ従兄ァそこで握飯バ食てだオン。

まるめろバ拾ゥどもても如何しても拾えネンだもの……

ああ故郷モいま雪ァ降てるべなあ。」

〈ふぢァ死ぬ時の夢〉　ーーー方言詩集　まるめろ　よりーーー

これは、若かりし頃に満州へ出征したという高木がそこで見た夢について書いたものか、あるいは実際に、戦地で死の淵に立った時に見た光景だったのかもしれない。

黄色い果実は「死」の世界に転がったまま、彼は「生」に留まることとなった。夢かうつつか、その淵にいた高木の脳裏に浮かんだ風景こそが、彼の愛する故郷であったと解釈しても良いだろう。

本の中に入り込むほどに、三人の著者たちが常に“あっち側”と“こっち側”を行き来していることがよく分かる。例えば田舎と都会はもちろん、日常と非日常、吹雪と晴れ間、今と昔、理想と現実。喜びと悲しみや、愛と憎しみ、男と女。そして、生と死。すべて私たちが普段生きているこの二元の世界における、“相反するものごと”だ。

それらが彼らの豊かな感受性を通して言葉や写真となり、まるで舞台の大道具や背景画のように用いられながら、静かに時は流れている。私たち観客は、徐々に『津軽』というこの芝居に引き込まれ翻弄されて、いつの間にかただ物語を眺めるだけになるだろう。

よく出来たシナリオの通り、本質はいつでも深いまなざしの向こう側にあって、見ようとしない限りは決して見えない。

本の最後にある小島が撮った写真についてそれがどんなものかはここには書かないが、この物語の終わりと次の始まりを示しているような気がしている。

私たちはまだ少し、この分離した世界で一本の道を選び進むのだろう。

故郷という名の“美しい記憶”を背負ったまま、悩み、憧れ、愛するという確かな足跡を残して、どこかを目指して、たったひとりで。

富谷昌子（写真家）

これまでのフォトブックレビューはこちら

写真家による写真集レビュー