Picture of My Life エッセイ⑤ – 死の淵 上田順平

Reminders Photography Stronghold Galleryはいよいよ今年の11月に4周年を迎えます。今年の記念企画展には上田順平 写真展『Picture of My Life 』を開催いたします。上田順平は2015年度にRPSにて開催されたPhotobook As Objectワークショップで写真集プロジェクト「Picture of My Life」に取り組みました。およそ一年以上をかけて完成した本の刊行および写真展になります。この展示に先駆け、展示作家上田順平によるエッセイの連載をしております。第五回目は「死の淵」です。

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1998年11月27日夜。雨が降る中、母は家を出た。
父は夜中の仕事に備えるため、19時〜22時頃まで仮眠をとるのが習慣だった。起きてきて家に妻がいないことに気づいた父は近所を探したが見つからない。警察に捜索願いを出し、兄と職場の同僚に助けを求めて、手分けして一晩中近所を探し回った。

明け方、父の携帯電話に警察から電話が入る。区内で中年女性の飛び降り自殺があった。奥さんかもしれないので確認しに来いとのこと。父と兄は警察の遺体安置所へ向かった。2人はどんな気持ちで、もう動かない母に会ったのだろうか。

僕は何をしていたのだろう。母はなぜ自分を殺してしまうほどに孤独になってしまたのか。

妻の死後、父はずっと酒を飲んでいた。糖尿病のために普段は酒を控えていたが、妻の自殺という現実を前に、しらふでいることが出来なかったのだろう。
「このアホ自殺なんかしやがって!」と言って泣きながら妻の棺を蹴っていたそうだ。悔しくて、悔しくて、しょうがない…。そんな父の気持ちが痛いほどに伝わってくる。兄は父が社長を務める家業の運送会社に入社したばかりで、母の葬儀の後、2人は一緒に酒を飲みながらこれから頑張ろうなと励ましあった。

「アホの順平は何やっとんねん。あいつ帰ってきたらお前どついとけ。あいつがおったらお母さんは死なんかった…。お母さんはいっつも順平のけつ付いて回っとったやろ…。」

12月7日そんな会話の後、19時頃に兄は夜中の仕事に備えて仮眠を取るために寝室に入った。父は明日から仕事復帰し、取引先に妻の葬儀の挨拶回りに行くと兄に伝えていた。
22時過ぎ、兄は眠りから覚めてトイレに行こうと寝室を出た。トイレ横の屋上へ向かう階段の暗がりに、何かがあるのが視界に入る。寝ぼけた目を凝らして見ると、父が首を吊っていた。

—-第六回へ続く。

これまでのエッセイを読む:
Picture of My Life エッセイ① – 父の絵 上田順平
Picture of My Life エッセイ② – 両親 上田順平
Picture of My Life エッセイ③ – 逃避旅行 上田順平
Picture of My Life エッセイ④ – 悪い夢 上田順平
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