Picture of My Life エッセイ④ – 悪い夢 上田順平

Reminders Photography Stronghold Galleryはいよいよ今年の11月に4周年を迎えます。今年の記念企画展には上田順平 写真展『Picture of My Life 』を開催いたします。上田順平は2015年度にRPSにて開催されたPhotobook As Objectワークショップで写真集プロジェクト「Picture of My Life」に取り組みました。およそ一年以上をかけて完成した本の刊行および写真展になります。この展示に先駆け、展示作家上田順平によるエッセイの連載をしております。第四回目は「悪い夢」です。

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リビングのすみっこで、母がカベの方を向いて床に正座している。

「なんでそんなとこで正座なん。ソファか椅子にすわったらええやん。」
「ここがいいの。落ち着くから…。」
「夜は寝れた? 体は大丈夫?」
「寝てない。頭が重たいの。脳が圧迫されるみたいで不安になる。ごめんネ…私が悪いの。」

洋服が掛けてある2畳ほどの狭い部屋で、包丁をもってしゃがみこむ母。
リビングに母がいないことに気づいた父が母を探している。

母を捕まえた父が怒鳴りつける。
「おまえは何してんねん! なんでそんなに弱いんや! 俺までおかしなるわ!」
感情のタガが外れた母は大声をだして泣いている。父を振り切って、包丁を振り回す母。
「なにしてるん! やめろや! 」
目をさますと、今自分がいる場所がどこなのか分からなかった。
「タイや…、夢か…。」
心配になった僕は2週間ぶりに家に電話をした。しかし、何度コールしても誰も出ない…。

初めての海外は興奮の連続だった。日本語が通じない中、片言の英語で意思表示するのが楽しかった。両親のことや、自分のこれからのこと、わずらわしい事は何も考えなくて済んだ。海辺で1日中本を読んだり、タイの若者達と酒を飲み、適当な英語で朝までバカ騒ぎした。ただ時間とお金を消費していれば良かった。

日本を出て1ヶ月後のある日、仲の良さそうなタイ人の夫婦と飲んでいて、ふと両親のことを思い出した。「オカン元気かな?」翌日の昼過ぎに目を覚まし、ふらふらと部屋を出て、街角の公衆電話から自宅に電話した。

「もしもし、順平です。」
「おう、順平か!自分今どこおんねん、章一にかわるから待てよ。」

電話にでたのは父の職場の同僚だった。なんで?

「もしもし、おまえどこおんねん。今すぐ帰ってこい。」
「えっ、なんでやねん。後1ヶ月タイにおる予定やねん。」
「ええから帰ってこい。」
「オカンはどうしてんの?」
「帰ってこい・・・。」
「なんで?なんかあったん?オヤジは?」
「ええから、すぐに帰ってこい!」

兄の声は震えていた。大変なことが起こったようだ。
2人とも死んだか?両親が車で単独事故を起こしている様子が思い浮かんだ。
埃っぽいクラビの町を宿に向かって歩きながら、考えれば考えるほど、2人はもういないような気がした。友人に事情を話してチケットの手配など帰国準備をしてもらった。何も考えられない。何もできない僕を心配した友人がタイからマレーシアまで送ってくれて、1人日本への飛行機に乗った。ただ、両親が生きていてくれることを願って。

—-第五回へ続く。

これまでのエッセイを読む:
Picture of My Life エッセイ① – 父の絵 上田順平
Picture of My Life エッセイ② – 両親 上田順平
Picture of My Life エッセイ③ – 逃避旅行 上田順平
こうしたエッセイも含む写真展に関する情報はフェイスブックで随時更新しています。
https://www.facebook.com/events/886439928152952/
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