Picture of My Life エッセイ① – 父の絵 上田順平

Reminders Photography Stronghold Galleryはいよいよ今年の11月に4周年を迎えます。今年の記念企画展には上田順平 写真展『Picture of My Life 』を開催いたします。上田順平は2015年度にRPSにて開催されたPhotobook As Objectワークショップで写真集プロジェクト「Picture of My Life」に取り組みました。およそ一年以上をかけて完成した本の刊行および写真展になります。この展示に先駆け、展示作家上田順平によるエッセイの連載を本日より始めます。第一回目は「父の絵」です。

%ef%bc%91%e7%88%b6%e3%81%ae%e7%b5%b5

僕が9歳の頃、父から小遣いを貰って絵のモデルになったことがある。11月の気持ち良く晴れた日 曜日。やわらかな午後の光が入る窓際に椅子をおいてすわる僕と、2mほど離れた場所にイーゼル を立て、キャンパスに向かう父。静かに手を動かし絵の中に没入していく父は、遠くを眺める僕を キャンパスに描き込んで行く。じっとしていることは難しかったけど、普段あまり話さない父に無 言で見つめられる事は、2人だけの特別な儀式のようで嬉しい時間だった。絵を描く父の姿は、憧 れの対象として僕の記憶に刻み込まれている。

父は人物・風景・抽象と様々な対象を描いた。 父の絵はどれも動いて見えるほど生命感があり、 描いた時の心の有りようが伝わって来る。僕が大好きな絵は、新婚当時に母を描いた1枚だ。スピード感のあるタッチ、背景の淡い水色 と唇のピンクが響きあう。光あふれる画面からは、新妻 を前にした青年の心の高まりと生きている喜びが伝わってくる。

目が離せなくなる絵もある。19歳の父が画家を生業とすることを目指していた1966年に描いた 「聖歌隊」というタイトルの絵だ。厚塗りの油絵具、赤黄緑黒の暗く重たい色調、不安げに呻く人々、中央には虚ろな目をした青年が立ち、画面外にむかって弱々しく何かを訴えかける。嘆き 怯える人々から出る感情が圧力となって絵を見る僕に襲いかかる。母と出会う前の父が世界に対 する自らの絶望を直視し具現化した絵。19歳の父はなぜ自らの絶望をこれほどまでに直視する必要があったのだろうか。この絵から聖歌は聴こえてこない。

父に影響された僕は絵を描き、見てもらったが、あまり褒められた記憶はない。父の絵と自分の 絵では線一本から違っていた。父の線には有機的な表情があり、描いたときの感情がのっている ように見える。僕は真似をしようと何枚も自画像を描いたが、父のような線は引けなかった。絵 に興味を持った僕を見て、父は喜んでいるようだった。「言葉以外に自己を表現する自分だけの 言語を持つことで、おまえの人生は豊かになる。」と父は僕に教えた。

芸術といわれるものに触れていくなかで、20歳の僕は目の前をそのまま提示する写真に惹かれる ようになっていた。写真はカメラが目の前を絵にしてくれる。僕は心が動いた時にシャッターボタ ンを押せばよいだけだ。自分の中に消えずに残っている風景。友人や恋人との親密さ、1人でいる 時の孤独、僕の感情を掻き乱す物事。そんな目の前を写真にしたい。忘れたくない目の前を組み 合わせることで、僕の人生が物語になると思った。これなら父に褒めて貰えるかもしれない。

—-第二回へ続く。

こうしたエッセイも含む写真展に関する情報はフェイスブックで随時更新しています。
https://www.facebook.com/events/886439928152952/
写真集’Picture of My Life’のご予約受付は終了しております.