REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #21 BELGIAN AUTUMN

07/09/2015

今回のブックレビューは、5月には写真集制作ワークショップの講師として、6月には写真集刊行と写真展を開催したばかりの写真家ヤン・ラッセルの「ベルギーの秋」取り上げるのは写真家の木村肇くんです。

Belgian Autumn. A Confabulated History. from REMINDERS PHOTOGRAPHY STRONGHOLD on Vimeo.

「もしも記憶が経験によって生成されるものならば、編集のあり方もまた、経験によりコントロールできるのではないか？」

これは近年、ダニエラ・シラーという神経科学者がpartial recall という概念の元にPTSD患者の療法として提唱した説である。

人は元来、時間の経過によって薄れていく多くの記憶の中でも鮮明に覚えている、もしくは蘇ってしまう記憶というのものを保持している。時にそれは忘却へと葬りたいが為に懸命に蓋をしようと他の記憶を上塗りするという行為を試みる。記憶の持つ曖昧性と、あるひとつの挙動から端を発するフラッシュバックの狭間で、人は自分なりの妥協点を無意識に選んでいるのである。
記憶の最果てに身を置く者。日々上書きされていく記憶のエッジに己を晒す者。写真家のヤン・ラッセルはその様な後者の道を選んだのだ。
記憶の曖昧性を受け入れるという前提の中で、自身の記憶の曖昧性が作り出した信憑性を彼は今も信じ抜いているのである。それは奇しくも、忘却という記憶の役割が作り出した、時効という概念に抗いながら生きようとする人間のひとつの本質とさえ見てとれるのではないだろうか。
ベルギー史に残るこの事件は今年ひとつの収束点を迎える。未だ無数に絡まり合った、だが決して切られることはないであろう糸と共に。

シラーは実験の中でこの様な事も言っている。
「記憶を上書きするには、いちど苦痛を伴う、その忘れたい記憶を経由しなければならない。即ち、受け入れるという行為を踏まなければならない」と。

木村肇（写真家）

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