【ぐるぐるができるまで⑤最終回 世界を作る】松村和彦
本作りはゴールに近づいていった。作った当人が言うのも変だが、「随分とナイーブな風になったなぁ」と思う。もちろん、まぎれもなく僕の内面の大切な一部だけれども。
こんなことを思い出す。ショッピングセンターでマジシャンのショーに出くわした。とてもナルシストっぽい感じで、変な人だなと思った。でも、ショーが始まるとだんだん観客は引き込まれていった。バルーンアートの技術がすごかった。そして最初違和感を持った強い個性は技術と融合し、魅力に変わっていた。格好付けたポーズの度にバルーンが次々と形を変えていく。マジシャンの内面がショーという世界になって目の前に立ち現れていた。
ふと、自分がやっていることも同じだなと思った。個人の内面は時に独り善がりだし、そのままでは見ていられないこともあるだろう。だから、洗練させる。大事なことを伝えるために徹底的に魅力を高める。
ワークショップ後も写真の編集は由美さんやトゥーンさん、サンドラさんとやりとりを重ね、続けた。さらに、ストーリーの暗喩となる魅力的な装丁を目指した。血やつながりをモチーフに赤い糸を表紙の和紙の下に仕込んだ。写真集に付ける日記周辺には連なりを意味する紋様を足した。透ける紙も大事な場所に挿入した。48部の発行部数にも意味がある。「4=死」を「8=無限」につなげたいという願いを込めた。いくつもの仕掛けを作りながら、糸綴じやハードカバー作りも繰り返し練習した。ダミーブックは10冊を超えた。本作りは最初から最後まで手間の連続だったけれども、世界はそうやって作られていくとわかった。
出来上がってみて、時を閉じ込めることができる写真集は、僕が恐れた「時が移ろうはかなさ」へのささやかな抵抗だったような気がしている。人は亡くなれば存在も記憶も少しずつだが薄れていく。けれども、本はそれらを未来に残せる。
展示については、このささやかな夢がかなったという設定で組み立てた。年老いた息子が暮らす部屋。古いいすの前には一冊の写真集が置いてある。そして、写真集を見た息子の頭の中を会場に再現した。
こうして僕のナイーブな世界は本や展示に変わった。あのマジシャンのように人を楽しませているか皆さんに見ていただければうれしい。
今回は多くの人に引っ張られるように世界を作り出した。これからは自分の手で自分の世界を築いていけるのか。そんな課題を由美さんと話して、東京を後にした。
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