【ぐるぐるができるまで④ 赤ちゃんときゅうり】松村和彦

赤ちゃんときゅうり。視覚的なつながりがあるとトゥーンさんは言った

赤ちゃんときゅうり。視覚的なつながりがあるとトゥーンさんは言った

「写真集は視覚的な小説だ」。RPSが昨年12月に開き、オランダのブックデザイナー、トゥーン・ファン・デル・ハイデンさんとサンドラ・ファン・デル・ドゥーレンさんが講師を務めたPhoto Book Master Classで学んだことだ。単に美しい写真を羅列しただけのものではなく、写真が持つ「言葉」を理解して並べ、テーマに対する作者の解釈を物語る。ワークショップではそんな写真集の理想像が示された。
ワイドエディットの写真を机に並べ、参加者も含めて意見を出し合う形でワークショップは進んだ。自分の本についてはほかの参加者から白黒とカラー写真を交互に並べると、遊びすぎているという声があった。また、トゥーンさんも白黒写真を物語の柱に据えることを提案。さらに、全体的な編集のポイントとして家族の話ではあるけれども、かわいい写真を選んだ家族アルバムではなく、詩的で普遍的な物語に仕上げようと話してくださった。
特に印象に残っているのは、写真の並べ方だ。妊娠中の大きいおなかと葉の落ちた木のシルエットを組み合わせる。疲れた表情でおっぱいをやる写真の次ページに川の水面を置く。一見脈略のない並びで、驚いた。「視覚的なつながりが大事」。トゥーンさんは言った。
カラー写真は白黒写真の物語の合間に短く挿入する形になった。白黒の物語の合間に違う質感を配するためだ。カラーと白黒が見開きになるページでは、赤ちゃんときゅうりなど言葉で書くとおかしな組み合わせもある。けれども、不思議な魅力があるし、何より見る人に「何だろう」と考えさせ、ページをめくりたくなる仕掛けになっているように思う。とはいえ、実際につながりのある組み合わせもある。少しだけ大きくなった妻のおなかの写真と妻の父がおなかの赤ちゃんをモチーフに描いた仏画が並ぶ。面白いのはトゥーンさんはそんな背景を知らずに、写真を並べたことだ。視覚的なつながりにはちゃんと深い意味があるのだ。
赤ちゃんときゅうりの組み合わせもその後何度も見ているうちに、「どちらも今は新鮮だけれども、いずれは形を変えるもの」という風に解釈できるなと思った。言葉にするのは野暮なのかもしれないけれども。
「時にはリズムを裏切って並べる」「強い写真の後に抽象的な写真を入れて余韻を味わってもらう」「緊張感を高め、一気に解く」。トゥーンさんからは様々なこつを教わった。何よりほかの参加者の作品の並びが変わるのを見ることが何よりも勉強になった。
ただ、こうした編集力を身につけるのは本当に難しいと思う。ワークショップ中や終わった後も何度も編集を繰り返したが、自分ではなかなか美しい並びにはできなかった。編集は奥深い。そして、編集を身につけることは撮影にもつながっていると思う。

寿司職人のような手際の良さで写真を並べるトゥーンさん。奥の赤いセーターを着た方がサンドラさん。

寿司職人のような手際の良さで写真を並べるトゥーンさん。奥の赤いセーターを着た方がサンドラさん。

トゥーンさんが30分ほどで考えた写真の並び。

トゥーンさんが30分ほどで考えた写真の並び。

右上。妻のお腹とお腹の中の赤ちゃんをモチーフに妻の父が描いた仏画。トゥーンさんは背景を知らずに並べた。

右上。妻のお腹とお腹の中の赤ちゃんをモチーフに妻の父が描いた仏画。トゥーンさんは背景を知らずに並べた。