Picture of My Life エッセイ⑥ – 家族アルバム 上田順平

Reminders Photography Stronghold Galleryはいよいよ今年の11月に4周年を迎えます。今年の記念企画展には上田順平 写真展『Picture of My Life 』を開催いたします。上田順平は2015年度にRPSにて開催されたPhotobook As Objectワークショップで写真集プロジェクト「Picture of My Life」に取り組みました。およそ一年以上をかけて完成した本の刊行および写真展になります。この展示に先駆け、展示作家上田順平によるエッセイの連載をしております。第六回目は「家族アルバム」です。

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旅から帰宅し、唐突に両親の死に近づいた僕は、目の前で起きている事の理不尽さにただ呆然としていた。寝て起きたら夢だった。なんていう落ちはついてないみたいだ。痛くても、悲しくても、酒をあおって酩酊し気絶するように眠っても、時計の針はただ前に進む。

絶望に飲み込まれそうになりながら、僕は目の前のありのままを記録し、今しかない感情を残そうとした。写真を撮る事で自分を死の淵に連れてきたこの出来事に少しでも抵抗したかった。2人の遺影が並んでいる祭壇の写真を撮ったとき、両親の自死が作品になる事を確信し、自分は生涯両親について考え続けることになるだろうと思った。

過ぎ去った幸福な日々は家族が共有する思い出の中にある。そして家族の歴史がつまった家族アルバムは、その幸福が確かにあったものとして証明してくれる。母の死後、父は家族アルバムの編集をした。1ページにクリアポケットが3つ付いた何処にでもあるアルバム。表紙には父の字で ”思い出” と書いてある。泣きながら、もう帰れない場所の断片を集めた父。旅から帰った僕は、父が自死を前に編集した家族アルバムを見た。それは、母と父の幼少時のモノクロ写真で始まる。出会ったばかりの初々しい2人、結婚式、2人の息子の誕生、みんなが笑顔でうつった写真ばかりを集めた、どこにでもあるような家族アルバムは、まるで父の遺言のように見えた。

「この幸福がもうないのなら、この世界に妻がいないのなら、ここで生きて行く意味はもうないんだ。」と父は言っている。

僕は父が編集した家族アルバムから、これまで経験したことのない衝撃をうけた。父は自死することを決めて、この家族アルバムを作っている。それは妻への愛を綴った手紙のようにも見える。死に引き寄せられそうになる僕に生きる力を与えたのは、家族アルバムの中の幸せな家族の記憶だった。

—-第七回へ続く。

これまでのエッセイを読む:
Picture of My Life エッセイ① – 父の絵 上田順平
Picture of My Life エッセイ② – 両親 上田順平
Picture of My Life エッセイ③ – 逃避旅行 上田順平
Picture of My Life エッセイ④ – 悪い夢 上田順平
Picture of My Life エッセイ⑤ – 死の淵 上田順平
こうしたエッセイも含む写真展に関する情報はフェイスブックで随時更新しています。
https://www.facebook.com/events/886439928152952/
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