「45冊しか作られなかった写真集」手製写真集silent histories、edition 1の持ち主とのエピソード

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2014年、45冊のみ出版した写真集「silent histories」のedition 1を持っているのは、この写真集の主題を教えてくれ、コンセプト/デザインをおこなったRPS代表の後藤由美さんである。そもそも、後藤さんに会って、主題となる太平洋戦争下で犠牲を負った子どもたちの戦後のストーリーを教えられたのは、2013年12月、僕が写真家としてのキャリアをスタートしてから3年目を終えようとしていた頃だった。その頃の僕はと言えば、自分が伝えたい主題に対してどうアプローチをしたら良いものか、どう発表したら良いものか、全く答えを見いだせず袋小路に迷い込んでいた。何かヒントをもらえればと写真家へコンサルティングを行っている後藤さんのところへ藁にもすがる思いで向かった。一通り、自分の取材内容について話をした後に、「大阪に住んでいるんだったら」と教えてもらったのが、大阪大空襲で被害にあった人々(当時は子どもたち)が補償をもとめ、国を訴えているという話だった。その人々を取材してみたらとすすめられた。コンサルティングを受ける前には全く予期していなかった提案であったが、その話を取材しなければいけないなと何ともうまく説明はつかないが、話を聞いたあとに強くそう思った。写真家として生き残り、自分が伝えたいと想うものを伝え続ける為には、何かこれまでとは違う他のことに目を向けなければいけないという思いがその頃にあったことも大阪大空襲の取材を行うことの後押しとなった。

そんなことから、僕の大阪での取材がはじまった。12月に空襲被害者訴訟団にコンタクトをとり、翌月1月に代表の女性(彼女も被害者)に会うことになった。話を聞き、取材のために他の犠牲者の方も紹介してもらいたいことを伝え、それからひと月に2人から3人、何度か自宅を訪れ、撮影を続けた。そんな最中、ある女性が僕の作ろうとしている写真集を裁判所に提出出来ないかと話を持ちかけてくれた。(当初から写真集にしたいと伝え撮影を行っていた。)訴訟は既に高裁で上告が棄却され、最高裁の判決を待っている状況であったが、判決が出る前であれば、証拠書類の提出が可能だということであった。ただし、その証拠を裁判官が見るか見ないかは裁判官の判断によるものだということだった。僕は以前からその女性に傷を撮影させてくれないかと、何度か相談していたのだが、最高裁から判決が出る前に、自分の傷を裁判官に見てもらいたいという思いから、6歳の頃に失った自分の傷を人生で初めて他人の前に曝してくれた。健常者が傷を見ることもなく障がい者の人生を想像することは難しいだろうとの思いからだった。僕も出来るだけ、戦争を知らない健常者がどれだけ彼、彼女たちの痛みを感じられるだろうかという点に表現方法の重きをおいた。裁判官が少しでも痛みを感じられるように。7月、取材内容は訴訟を起こしている空襲被害者の傷をおさめた証拠として最高裁判所に提出された。9月、最高裁への上告は棄却された。今、被害者の人々は新たな道を模索している。

45冊しか作られなかった写真集ではあるが、パリフォトをはじめ様々な国で展示された。それをきっかけにメキシコの出版社Editorial RMから1900部の出版も決まり、2015年11月、1年前に手製版が展示されていた会場で普及版の刊行が始まった。当初45部しか作らなかった写真集は、ジャーナリストという立場から言えば、広く内容が伝えられていないという点で大きく心残りであった。しかし、1900部が流通するということは自分にとって大きな救いとなった。

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こうして撮影された動画が↓です。

Hand made photobook “silent histories” by Kazuma Obara from Kazuma Obara on Vimeo.

東北の被災地で撮影をはじめた4年前には第二次世界大戦に関する取材をすることになるとは考えてもいなかった。しかし、今は本当に大切なテーマとして自分の取材の軸になっている。今年は大戦下の北方領土をテーマに取材を開始する予定である。今回は心強いアイルランド人とロシア人とともに同じプロジェクトに取り組めそうだ。

Edition 1の持ち主は、僕に新たな主題を与え、そして、僕を新たな方向に導いてくれた。これまで本当に多くの人に導かれ、なんとか今もやっているわけであるが、その中で新たな道を指し示してくれたedition 1の持ち主に心から感謝したい。

小原一真(写真家)

写真集のご注文はこちら↓から

写真集タイトル:SILENT HISTORIES
作家:小原一真
出版社:Editorial RM
※本の使用言語が英語になりますので、ご希望者の方にはダウンロードして印刷して綴じればパンフレットのような形になる日本語版を配布予定です。現在作成中のため、出来次第のお知らせとなります。
販売価格:8,500円(税込み、発送ご希望の場合は別途500円)
オリジナルプリント付き、30部限定。

本のご予約、ご注文をご希望の方は①お名前②Eメールアドレス③ご希望数④発送希望の方は必ず郵便番号番号とともにご住所、電話番号をお願いします。⑤イベント当日、またはギャラリーでの受け取りの場合はお越しになる予定日をお知らせください。
ご注文はstronghold@reminders-project.orgで受け付けます。
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文中の写真集「silent histories」はRPS主催のワークショップを経て誕生しています。2020年度のお申し込みはこちらから。
https://reminders-project.org/rps/photobookasobjectws2020jp/

来る2/22には小原一真くんを招いて「写真家と写真集をレビューする日」を開催します。(こちらのイベントは2016年当時のもので終了しています。)
是非、お誘い合わせの上お越しくださいませ。