鈴木萌写真展「Aabuku」京都:2024/5/3-5/12 東京:2024/2/10- 2/25

Reminders Photography Stronghold(東京)とRPS京都分室パプロルにて、2024年度企画展/ 鈴木萌写真展「Aabuku」を開催いたします。東京のReminders Photography Strongholdでの展示は、2023年6月に行われた「Jim Casperに作品をピッチする日」にて本作がRPS特別賞を受賞した記念展となります。
Reminders Photography Strongholdでは4年ぶりの展示開催となる鈴木は、2020年発表の「底翳」で表現した緑内障が進行する父親が見る世界から継続して、病や家族関係、都市開発などで変化する記憶の視覚表現に挑戦してきました。2020年より制作が始まった本作は、沖縄県における「有機フッ素化合物」(PFAS)による水や土壌汚染をテーマにした作品となります。3年間に渡るリサーチでデータ的側面の情報収集をするとともに、汚染が判明している水や土地につながりのある人々を訪ね歩き、集めた個々人の記憶から環境汚染の実態やその背後にある社会的構造を捉えようとした作品が初披露されるこの機会にぜひご注目ください。
東京で2月に開幕する展示を皮切りに、同タイトル写真集の刊行されました。また、期間中は関連トークイベントも行われます。今後当ギャラリーSNSにて発表される情報もご覧ください。皆様のお越しをお待ちしております。

Tokkurikiwata #01©︎Moe Suzuki

Aabuku

朝起きてまず初めにコップ一杯飲んだ水
保育園に行く息子に毎日持たせた水
毎朝手ですくって飲んだ湧水
自然農法で育ててきた田芋
グッピーを手で捕まえたせせらぎ
サッカーボールを蹴る学校のグラウンド
卵を投げ入れて拝む池
サップに乗ってのぼる川

目に見えず、匂いも味もしない。その物質はあの時飲んだ水に、手ですくった水に、畑にまいた水に、含まれていたのだろうか。そして今まさに、蛇口をひねって流れ出るこの水にも含まれているのだろうか。体の中に蓄積されたこの物質は、自分に、あるいは子供たちにどんな悪さをしたのだろうか。これからもするのだろうか。

2016年、沖縄県中部に位置する浄水場から本島中南部45万人に供給される水道水が有機フッ素化合物(PFAS)で汚染されていることが公表された。それは自然界や人間の体内ではほとんど分解されることのない「永遠の化学物質」(フォーエバーケミカル)の異名を持つ発がん性物質だった。4年後の2020年、宜野湾市の普天間飛行場格納庫にある火災報知器が誤作動し、大量の泡消火剤の泡が排水溝を通って基地外に流れ出た。ロマンチックにふわふわと漂い、いつまでも消えない泡には高濃度のPFASが含まれていた。そしてそこには、当たり前のように飲んで、遊んで、仕事に、そして拝みに使ってきた水の本当の姿を、昔見たかもしれない「泡」の記憶の断片をたぐりよせながら自分なりに捉えようとしていている人たちがいた。

これは、沖縄における米軍基地由来のPFAS汚染の実態を、人々の水や土地にまつわる記憶を軸に語った物語である。時を遡って汚染の数値を測ることはできず、国も米軍も根本的な解決策を提示しないばかりか汚染の事実さえも認めてはいない。それでも汚染の実態が徐々に明かされるにつれ、今まで気にも留めていなかった日々の記憶に生じる歪み…その記憶を聞き取りながら、汚染された土地と水を歩いた。ふわふわの泡以外に視覚的に捉えることはできない永遠の化学物質。基地のフェンスに遮られどうしても辿り着くことができない汚染源。訪れる人々が気持ちの良い風と波の音を被せ、あえて見ようとしないこの地の重荷。こうして「見えないものたち」は捻れて重なっていた。つかめそうでつかめない、ふわふわと漂う夢のようなあぶくをかきわけるようにして、私は人々の言葉と、言葉にされない思いを紡いだ。

鈴木萌

 

<取材/ 撮影協力:>
沖縄県公文書館、琉球大学博物館風樹館、宜野湾市立博物館、京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野・原田浩二准教授、PFAS汚染から市民の生命を守る連絡会、宜野湾ちゅら水会、コドソラ、普天間基地爆音訴訟団、嘉手納基地爆音訴訟団嘉手納支部、あなたの沖縄 | コラムプロジェクト、ジョン・ミッチェル氏、沖縄県企業局 そのほか多くの方々


鈴木萌写真展「Aabuku」
<京都>
◎会期:2024年5月3日(金)〜12日(日)13:00~19:00、会期中無休、入場無料
◎オープニングレセプション / アーティストトーク:2024年5月3日(金)13時ごろから
◎関連トークイベント「見えない汚染を伝える 」2024年5月12日(日)14時から
ゲスト:原田浩二准教授(京都大学医学研究科環境衛生学)
◎開催場所:RPS京都分室パプロル
京都市上京区老松町603 または京都市上京区老松町七本松通五辻上る603
google mapへのリンクは https://goo.gl/maps/1V5XyJ4kfuDk91F87
(最寄りのバス停:上七軒、または千本今出川)

<東京(終了しました)>
◎会期:2024年2月10日(土)〜 25日(日)13:00~19:00、会期中無休、入場無料
◎オープニングレセプション / アーティストトーク:2024年2月10日(土)19時ごろから
◎関連トークイベント「見えない汚染を伝える 〜沖縄と東京から〜」2/18 14:00-
ゲスト:松島京太(東京新聞社会部記者)
2024年2月18日(日)14時-16時 / すみだ生涯学習センターユートリヤ 3F視聴覚室
くわしくはこちらのサイトをご覧ください。
◎開催場所:
<東京>Reminders Photography Stronghold Gallery
東京都墨田区東向島2-38-5
(東武スカイツリーライン曳舟駅より徒歩6分・京成曳舟駅より徒歩5分)

Untitled, Aabuku©︎Moe Suzuki

Untitled, Aabuku©︎Moe Suzuki

Untitled, Aabuku©︎Moe Suzuki

The glass of tap water©︎Moe Suzuki

Kana Tamamoto©︎Moe Suzuki

Tānmu (taro potato)©︎Moe Suzuki

Untitled©︎Moe Suzuki

Seiryo Arakaki©︎Moe Suzuki

Untitled, Aabuku©︎Moe Suzuki

The Mother of three children©︎Moe Suzuki

Untitled,Aabuku©︎Moe Suzuki

鈴木萌 | プロフィール
東京都出身。London College of Communicationで写真を学び、2011年帰国。その後独学で製本技術を習得し、ビジュアル・アーティストとしての活動を開始する。主な媒体となる写真を軸に、アーカイブ、イラスト、リサーチ、映像などを織り交ぜ、本やインスタレーションの形で物語を表現する。時間の経過、環境の変化、障害、コミュニティ内の人間関係などに伴って変容していく記憶や風景をテーマに「底翳」「Today’s Island dismantling」などを制作。前作「底翳」は東京、京都、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、北アイルランド、フランスなど世界各地で展示され、同タイトル写真集はLuma Rencontres Dummy Book Award 2021を始めとする世界のダミーブック賞への入選・受賞経験を持つ。