インターン久光インタビュー第1弾「写真家のオーディション:SHINESについて」

RPSに7月よりインターンとして働き始めた久光が、ふとしたご縁で繋がった日本の写真界の最新の動きや取り組みをその中心となっている人物に取材、紹介をしていく不定期連載をはじめます。

違いを認めながらも多様性を受け入れ、表現の場や作家の活動の選択肢を広げていくこと、写真を学ぶ自分自身にとっても、将来に繋がる可能性をその中から感じ取っていけたらと思っています。RPSの本来の理念や方向性とは違うものだとしても、写真を通して自己表現をしようとする人たちにとって参考になる内容を取り上げていく予定です。

今回は今年が第1回目の開催となる「SHINES」について、キヤノンマーケティングジャパン株式会社 キヤノンサロン課、新保朋也さんに詳しいお話をお伺いしました。

 


【SHINES について】
SHINES は写真家のオーディションである。選ばれた写真家は写真集を作る権利を得られ、代官山の蔦屋書店で販売することができる。写真集の制作はマッチアンドカンパニーとなる。
年齢不問。二次選考以降に提出する作品は過去に発表したものでも応募可能。写真家として第一歩を踏み出したい方、また新たなチャレンジをしたい写真家、自分の作品・表現で活動をしていきたい人たちのために企画された。


【どんな写真家を求めているか】
カメラがアナログからデジタルへ移行し、誰でも画質がよく、きれいな写真を撮ることが可能になった。それによって自分も写真家になれるのではないかと考える人が増加した。しかし求めるものはその写真を撮った人の根底にあるもの、作品について語れることである。
写真には技術やセンスよりも熱意や衝動、あくなき好奇心、探究心が求められる。SHINESはまさにそういう人たちを発掘したいと考えているという。


【SHINES をはじめるきっかけ】
新保さんが所属するプロサポート部は、名前の通りプロの写真家のサポートをする部隊。ミッションとして、写真家の発掘及びサポートがある。現在、写真家を取り巻く環境は、情報のネット化により、雑誌の廃刊が続き、写真家の仕事の「場」が徐々に減少傾向にあり、更にストックフォトの台頭により単価の下落が続いている。
作家として活動をしていきたいと思っている方々にとって、身銭を稼ぐライスワーク(ご飯を食べるための仕事)が減っており、作家活動に充てる資金を稼ぐ事自体難しくなっているのだ。更に、写真集を販売する際には、作家が一部負担することが多くなっているとも聞く。現在の写真家の状況を考えた上で、今後作家として「写真を貫く人」を発掘するにはどうしたらいいか、それがSHINES をはじめるきっかけとなっている。

更にドリームラボという業務用のインクジェットプリンタがあることもきっかけの一つである。メリットはオンデマンドで1 冊から写真集を作成できること。
オフセット印刷がCMYK の4 色であるのに対して、ドリームラボはCMYK にPC(フォトシアン)/PM(フォトマゼンタ)/Gray(グレー)を加えた7 色で、色の再現性が良くなっている。用紙も光沢紙/半光沢紙/サテン紙/マット紙/アート紙などから選ぶことが可能。

©CANON / SHINES

過去にギャラリーS で展示をされた竹沢うるまさんが、ドリームラボの豪華版の写真集を30 部限定、5万円で販売したところ完売されたこともある。

この経験から、オンデマンド、小ロットで作成し、比較的高い金額で販売したとしても、本当に欲しい方にお届けすることができれば、その利益を作家の活動資金に充てることができると考えたのだ。
ドリームラボの仕上がりは、実際に写真展で使用できるほどのクォリティ。ぜひ一度見にキヤノン銀座まで足を運んでみてはいかがでしょうか。

©canon / SHINES


【SHINES のねらい】
SHINES を始めるにあたり、様々な方から多くの意見を頂いた。通常このようなイベントの際には、写真家が審査員であることが多いが、実際に活躍している写真家からは、「写真家に見せるより、次(仕事)に繋がる人に見せたい」という意見があった。そのご意見を踏まえて、多岐のジャンルの一線で活躍する方々を選考委員として招聘しているそうだ。

SHINES をレビュー形式にする話もあがったが、自らの意志、熱意、テーマを持っている方は、レビューの場は「自分を使ってくれ」というアピールの場であり、自らのプレゼンテーションの場になる。
結果、SHINES は最終選考会をプレゼンテーションになった。自らの気持ちを今回の選考委員の方にぶつけてほしいと考えているそうだ。

強い言い方になってしまいますが、「これから自分はどうしたらいいか」と教えを請うことを目的とする方は、自らの表現を見せていくフリーランスとしてはまだ独立できるレベルではなく、SHINES の最終候補にはあがりません。と語られた。


【SHINES の内容】
一次選考は「書類のみ」となる。フリーランスの作家は自らが営業マンである。作品はあえて出さず、自分のこと、軸(テーマ)となるもの、作品のことをきちんと言葉で語れることが重要だと考えているそうだ。
書類選考に通った方が二次選考で初めて作品を提出。最終選考会は20 名程度が選ばれ、一般公開で選考が行われる。
通常、このようなイベントの場合、グランプリが選出されるが、SHINES ではあえてグランプリは作らない。様々なジャンルの第一線で活躍する選考委員に選出された方は、光るものを持っていると考えるからだ。
公開審査自体も写真家にとってはチャンスであると考えていて、そこには選考委員のみならず業界関係者も来ている可能性が高いため、SHINES に選ばれなかったとしても、そういう人たちの目に触れたり、声をかけてもらえる可能性もあるかもしれない。名刺など、自分をアピールするツールはいつでも持っていてほしいという。

特典は写真集を作って代官山 蔦屋書店で売る権利を得られることだが、選ばれた人はフリーランスとしての資質を持っている方だと思われる。選考員の方々に自分から声をかけ、挨拶に行く。ビジネスマナーやコミュニケーション能力も必要。そこから先は自分の力で進んでいけるだろう。SHINES はあくまで「きっかけ」を作る場として考えてほしいそうだ。


【8人の選考委員】
選考委員はキュレーター、書店員、編集者、映像プロデューサー、俳優、ディストビューター、グラフィックデザイナーなど、「次の仕事に繋がる」ことを意識し、様々なジャンル、業界から招聘している。写真業界にとどまらず、「大衆的に」評価されることが、作家にとっても、写真業界にとってもいいことだと信じている。例えば海外の作家であるマリオ・テスティーノやアニー・リーボヴィッツなど、ポートレートでストレートな写真が評価されているように、日本でももっと沢山の方が評価され、ハードカバーの写真集が出てもいいと考えている。

選考委員の一人である竹中直人さんが「後追いで評価は誰にでもできる。まだ誰の目にも留まっていない才能を評価したい。自分のこの目で、心で。」とおっしゃっていた。今回の選考委員の方々は竹中さんと同様に考えてらっしゃる方ばかりだろう。
応募を検討されている方は選考委員を見て、この人に見てもらいたい、この人に選ばれれば次に繋がるかもしれないと感じてもらえるならば、ぜひ選考委員をめがけて応募してほしいという。


【写真新世紀との違い】
新世紀は最初に写真を提出してもらい作品を見て作家を選びます。大きな枠組みとしてはフォトコンテストの一貫である。
それに対し、SHINES は書類選考から始まり「人」で選ぶ。「人」のオーディションであるということが写真新世紀との違いだ。自分あるいは自分の作品について語れることを重要視している。

美術手帖(2007 年7 月号)の記述にあった「メディアでの撮影仕事の条件」
・社会人としての常識があること
・コミュニケーション能力があること
・自分が最後まで仕事をやるという責任感
・売り込みの際には自分で納得がいくブックを持っていること

このことはSHINES にも深く当てはまることだと語られた。

SHINES のHP、応募フォームを開くとあまりにもあっさりとしていて戸惑うかもしれないという。そのページは応募期間中であれば何度でも書き直すことができる。
まず文章にして相手に伝えられること、自分を語れること。外の世界に出る前にしっかりと自分を見つめる機会を与えてくれるのかもしれない。私たちが第一歩を踏み出す絶好の機会なのではないかと感じた。

http://canon.jp/event/photo/shines/index.html

©CANON / SHINES

©CANON / SHINES

取材、文責:久光菜津美(RPSインターン)