戦争が生んだ副産物は牧歌的なロシアを真っ直ぐに見せてくれない 写真作品読解・眼光紙背を磨く #3 アレキサンダー・グロンスキーインタビュー記事考察

キュレーターの後藤由美が提案した海外の写真作品をRPS京都分室長で写真家の松村和彦が読み解く「眼光紙背を磨く」。第3回目は、モスクワを拠点に現代のロシアの風景を撮影し、数々の国際的な賞を受賞しているアレキサンダー・グロンスキー(Alexander Gronsky)が、ロシアのウクライナ侵攻後の3月、非営利メディアのウェブサイト「Coda Story」に語ったインタビュー記事について書きます。

本来このコーナーは作品読解を目的にしていますが、今回はまず以下のURLで彼が語った内容についてお伝えします。

彼は侵攻後すぐにモスクワで抗議活動を行い、逮捕されました。ロシア国内では「すべての選挙や世論調査が不正に操作されている」とし、「反対する人間として何かを形で見てもらうには体を殴らせるしか選択肢がなかった」と悲痛な胸の内を明かしています。それでも、「侵略」などの言葉が禁止されているロシアでは政権によるプロパガンダが成功し、国民の洗脳が成功していることを「悪夢のようだ」と話しています。

ロシアで起こっていることは情報の取り扱いがいかに重要かを表しています。ここ日本でもそれは同じです。ロシア国内のように恣意的なプロパガンダは行われていませんが、戦争は情報を偏らせ、国のイメージを固定化します。日本でもロシア人というだけで誹謗中傷する事案が実際に起こっています。

戦争に関する情報は負の副産物を生みます。私たちはその副産物が私たちに深く影響を与えることを自覚しなければならないと感じました。

彼の作品を紹介して、今回の記事の結びとしたいと思います。2012年の世界報道写真賞で入賞した「Pastoral(牧歌的)」というシリーズは、モスクワの郊外に広がる田園風景の中でくつろぐ人々を写しています。

この些細な日常を写したシリーズも、今見ると、私たちは戦争のことを全く考えずに見ることはできません。写真を鑑賞する上で文脈は欠かせないですが、ただ目の前の写真を見つめることもまた大切だと思います。

彼はインタビューの中で、ロシアのあらゆるものが非難されることに理解を示し、将来ひどいロシア人についての映画が作られるようになるだろうと予言しています。「無力感と怒りを感じる」と嘆きました。

彼の撮った牧歌的なロシアを私たちが普通に見つめることができる日が一日も早く訪れることを願っています。

彼のウェブサイトで他の作品も見ることができます。
https://www.alexandergronsky.com/

文:松村和彦

まつむら かずひこ : 京都新聞の写真記者として働きながら、作品制作に取り組む。認知症についての写真展「心の糸」で2022年KG+SELECTグランプリを受賞、これを受けて2023年の京都国際写真祭KYOTOGRAPHIEで展示することが決定している。他の作品に、医師の早川一光さんの人生を通じて日本の社会保障史をたどった「見えない虹」、自身の家族の生と死を通じて命のつながりを描いた「ぐるぐる」など。2022年4月よりRPS京都分室パプロル分室長を務める。

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タイトルに使った「眼光紙背」とは、本に書いてあることを理解するだけではなく、深意に届くことを意味する四字熟語。「がんこうしはい」と読む。この連載は眼光紙背を磨きながら、皆さんと一緒に作品を鑑賞することを目的にしています。

#1 汚泥の中に写真の本質が隠れている?  ルーカス・レフラー「シルバー・クリーク」
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#2 本に物質性を宿し、鑑賞を体験に引き上げる ガレス・フィリップス「ザ アビズム」
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