REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #12 EVIDENCE
写真家によるRPS写真集図書室ブックレビュー、随分と間があいてしまいましたが、久々のアップです。
今回写真家の幸田大地くんが取り上げるのはこちら。
この作品を作ったDiana Matarは、とても優れた写真家の方で高い評価を得ています。
詳しくは彼女のウェブサイトでチェックできます。
http://www.dianamatar.com/
内容は、シリアのカダフィ独裁政権に抵抗する勢力のリーダーであった義父に関して、様々な記録や体験を基に紡がれるヴィジュアルナラティブです。
カダフィ政権が終わるという歴史的なニュースを多くの人が記憶しているに違いないと思います。そうした鮮烈な出来事の裏にこうしたパーソナルな出来事があるという事は改めて語られる事なしには、忘れられてしまう事が殆どなんだと思います。そしてそうした物語は当事者によって語られるべきなのですが、それは簡単な事ではないように思われます。
それは誰の為にどこに向かって語られるのか。欲しいのは何か、共感なのか、それとも別のなにかなのか。
こうした問題をクリアにした先に、作品として成立するものが有るように思われるのですがこのEvidenceでは、その辺がかなりクリアだったと思います。
写真は感情的ですが、目的地はもっと別の部分にあるのだと感じます。
誘拐された義理の父親について長い時間のなかで断片的に紡がれてきた記憶や、記憶とも呼べないような微かなつながりのようなものを、丁寧に一つの形に集約しています。
作品は全体を通じて静的なイメージが続き、淡々とページがが進んでいきます。
テキストを読まずに画面だけを眺めていれば、それらは美しい写真の集合体でしかないと感じる人も居るかもしれません。
しかし断片を集約していくという形を考えれば、間に挟まれるテキストも写真と同等に重要なものであると考えられていると思います。
すべての要素は何かに向かってセットされた引き金の役割を与えられていると感じます。
タイトル、テキスト、写真選びそういった全体の構成というものが如何にして、総合的に想像力へ働きかけていくのか。
この作品はとても現代的だという印象です。
奇しくも、この本で行われている事は、僕自身も考えてきた形態というかテクニックと、多くの部分でオーバーラップしている点がたくさんあり、そういう意味では、個人的にかなり参考にさせてもらう点が多い一冊だと思います。しかし同時に、パーソナルかつ、抽象的な感情についての主題を、本という形に落とし込み、読み手がしっかりと物語の中に潜って行けるレベルまで高めていく事の難しさも感じました。良い意味で自分の作品を振り返る事ができ、次に活きてくるものがたくさんあるなと感じています。
たぶん、インスタレーションの用な形で写真によって空間が作り込まれていればもっと強くダイレクトに、僕なんかは感じる事ができるだろうとおもいます。
より体感的に感じる方が受け取れるものが多いように思うのです。世界が構造的であればあるほど、本にするのは難易度が高いと個人的には思うのですが、本という媒体が全体的に、既存の範疇を超えようとする動きは今後も続いていくと思います。そして、この作品が高く評価されたという点から考えるべき事はたくさんあると思います。
アンチクライマックス的な最後はCodaという形で締めくくられます。Codaはある部分からの繰り返しを意味する音楽の記号ですが、これはこの一連の作品とその行為がある部分からくりかえされるという事を暗示しているのではないかとおもいます。しかし、それはDa capo のように最初に戻る訳ではなく、行為として積み重なった確かなもの、そしてそれを考え続けてきた時間の蓄積は確かに有るという事を示しているのでしょう。
何かを言おうとしつつ、改めて語るほどの事は無く、しかしその行為に向かい繰り返す事にのなかに確かなリアリティを感じさせます。
そして、写真の記録性が行為としての写真を補強しているなとも感じます。
写真の可能性を模索して、こうした構造と形を備えた作品が生まれてくるのは今必然なのだと思います。
印象としてはそれらはまだ過渡期にあるようですが、この作品は今後の写真の展開を強く感じさせるものでした。
幸田大地(写真家)
※Diana MatarのEvidence。RPSでも署名入りのお取り扱いをしています。ご注文はこちらから。
これまでのフォトブックレビューはこちら
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