第一回「PHOTOBOOK REVIEW WITH THE AUTHOR: Rena Effendi」

写真集図書室のオープンを記念し、写真集に関するイベント「PHOTOBOOK REVIEW WITH THE AUTHOR(写真家と写真集をレビューする日)」の第一回、アゼルバイジャンの写真家、レナ・エフェンディのインタビューの翻訳ができました。
記念すべき第一回目はアゼルバイジャンの写真家、レナ・エフェンディです。レナ・エフェンディは新著「LIQUID LAND」をオランダの出版社Schilt Publishingから出したばかり。当日は地元アゼルバイジャンのバクからスカイプで参加してくれました。

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レナ・エフェンディ新著「LIQUID LAND」表紙

 

写真家レナ・エフェンディとのインタビューの全訳はこちら(翻訳:川上紀子)

Q:この本を誰に一番、見てもらいたいですか?

もし、好きなように答えて構わないなら、空想の世界の話になってしまうけど、私の父に見てもらいたいわね。1991年、ちょうどソビエト連邦の崩壊を前にして父は亡くなってしまったけれど、彼がこの本に対してどんな風に思うのかしらと本当に考えるの。全く気に入らないかもしれないし、私が彼の写真と私の写真を混同して使用したことを怒るかもしれない。私は彼の科学のプロジェクトをアートのプロジェクトへと変えてしまった。多分、彼はとても気に入るかもしれないわ。

父はとてもクリエイティブな人で、いつだって既存の枠組みや考えに縛られることはなかった。蝶の本でさえ、より広い範囲の読者層が手に取ることが出来るようにしたかったの。完全な科学の本にしたくなかったのね。蝶の研究では、ギリシャ神話とそれを結びつけようとしていて、それは全ての蝶の名前はギリシャ神話の登場人物に由来しているからなのだけど、彼はなぜ、ギリシャ神話のある登場人物と蝶の行動に繋がりがあるのか、その理由を説明しようとした。つまり、彼自身もとっぴなアイデアを持っていたってこと。だからこそ、この本に対する彼の反応をとても考えるの、この本を制作していた時、彼のことをとても考えたしね。彼のためにそれを作ったようなところもあるのよ。表紙が赤いのは、ソビエト連邦ではかつて赤本と呼ばれる本を出版していたから。それはつまり、ロシア・ソビエト帝国の国々に何が起きているかを明らかにするための本だったのよ。

父の蝶たちは絶滅の危機に瀕していた、赤い色は警告の色であって、つまり人々にどうすれば種を守っていけるかを考えさせる警笛となる、だから私はこの色を選んだのよ。表紙には一匹の蝶がいるけれど、それは父が描いたものなの。科学的な精密さでどんな風に父が蝶たちを描くのか。近づいて見てみると、羽が胴体から離れているのが分かるでしょう。それは左右で蝶の雌と雄のそれぞれの羽の形になっているのよ。この本を作っている間、本当に彼のことが頭の中にあったわ。

それと、私の三歳の娘にもこの本を見てもらいたい。まだ、彼女は見ていないの、私が見せていないのよ。娘に見てもらい、それに関心を寄せて、その良さをわかって欲しい。いつかこの本を通して私が何をしているかを理解してくれたらいいなと思う。彼女が、私を母親としてだけでなく、仕事に、写真というものに情熱を傾けている人間として認識するために、学ぶことが出来れば、より良く理解していけるのではないかしら。

だから、この本は全ての親たちに捧げられているのよ。

後藤:あなたのお母さんはこの本をどう思ったのかしら?

母は英語を話さない、だから私たちは彼女が読むことの出来るロシア語版が出来上がるのを待っているの。この本では文章がとても重要だから。母にとても見てもらいたいと願ってはいるのだけれど…、母と父の結婚はとても難しいものだったから、父は採集のために家を留守にすることが多かったし、私がまだとても小さい時に離婚してしまったのよ。だから、母にとってこの本を見ることは簡単なことではないかもしれない、でも同時に、母に見てもらうことはとても良いことだとも思うのよ。この本が父について良い思い出を母に与えることが出来るかもしれないから。そう考えると、この本何よりも、家族のアルバムなのだと思う。

質問:他にも写真集を出版してきましたが、そこからあなたが得ることの出来たことは何ですか?また写真集と写真展の違いをどう考えていますか?

写真集を出版することは大きな一歩だと思う。多額のお金をつぎ込んで、少なくとも写真家にとって、ドキュメンタリーフォトグラファーにとっては、とても大きなお金よね。でも、世界的な認知を得られるわ、私を見て、本のお陰で今、日本にいるあなたたちとこうして場を共にしている。写真集がいいものであれば、国際的に認められて、多くの批評を獲得するでしょう。写真集 “pipe dreams” では多くの媒体で評判を得た、それもメジャーなもの、テレビの取材まで、ドイツではドキュメンタリーが作られたのよ。私にとってはその全ての批評が人生における重大な出来事、とても重要な出来事となったわ。そしてアート的な側面でもそれは本当に業績となる、より半永久的な意味でのね。そこにあり、そしてそこにあり続けること。写真展はもっと瞬間的な束の間の様相をしていて、そこに固としてあり続けるわけではない、一ヶ月の間続き、そして終わりを迎える。より長い期間見ることは出来ない、美術館での展示でもない限りはね。

私は写真集の方が写真展よりも長い影響力を与えられると思っているの。本の寿命の方が長いのよ。理想的には両方できればいいと思うでしょう、写真展と写真集。もしそうなったら、それは本当に素晴らしいこと、壁にかけられた写真を見れば、人々は細部の美しさまで見ることが出来る。写真集はより、美術品のようなものね。手に取り、持ち運ぶことが可能だわ。そしてそれを持ち続けることが出来るのよ。写真展はそうはいかない。本は物、大事な物となり、人々はそれを集めることが出来る。つまり、それは過ぎ去って行ってしまうものではなくて、物質的な形をしているということ。あなたが何をしているのか、あなたの写真の人生の中のある長い章を、物質的に表現したものであると思う。

Q:写真集を作る際にはどのように関わっているのですか?

私が全ての写真を選んでいる。それはとても重要なことなの。デザインの段階に関わることもとても好き。どうしたいかっていうとても明確なアイデアがあるからなのだけど。私が既にコンセプトを持っていて、それをはっきりと語るのよ。ヴィクター・レヴィーととても緊密に仕事をしたわ。それはとても素晴らしく、本当の理解だった、私たちは大きな相乗性を持って、とても親密に仕事が出来る見事な関係性を作り上げたの。当初、蝶を別個にして本の中にある区分を作ろうとした。でも上手く行かなくて、再度、変更を行った。元あったように戻して、そしてそれは一緒になったのよ。ヴィクターは私のアイデアに、とてもクリエイティブなアイデアで応えてくれる。基本的には二人で並んで一緒に成し遂げた、そして彼は家族のアルバムを作るということにおいて、私のことを本当に良く理解してくれたわ。とてもパーソナルなことであったし。私は自分自身の作品を編集するのが好きよ。

Q: もし、火事になって一冊だけ写真集を持って行けるとしたら、どれにしますか?

とても難しい質問ね、だけどその質問をされたことはとても面白いわ、だって私の最初の写真集 “Pipe dreams” は実際に燃やされてしまったから。60冊の私の写真集のコピーが、発行人のシルトからバクの私の元に送られた時、政府がそれを阻止して、私から奪い、その後に麻薬や違法な本と一緒に焼却炉で焼いてしまったのよ。だから、私は火に関する質問にはとても敏感なの。

そんなわけで、もし一冊選ばなければならないなら、恐らく“Pipe dreams” を守ろうとすると思う。また、燃えてしまうようなことにはしたくないから。私は写真集が大好きで、収集していて、本当に沢山持っているの。宝物のように思っているし、一冊を選ぶことはできないわ。

最近の中で最も気に入っている一冊は、ドナルド・ウェバーの “Interrogation” 。素晴らしい本だと思う。ただのドキュメントというよりもパーソナルなレベルの作品が好みなの。写真家の撮影している対象のポートレイトと同じくらい、写真家自身のポートレイトが見える作品ね。作品を通して写真家のパーソナリティーが見たいと思う。そういった写真集に私は最も興味を持っている。今、私の写真集はカイロにあるの、全ての私の本たちをカイロに運んだのよ。だから、何百キロもの本と私は旅をしなければならない、本当に大変、だけど他にどうしろっていうの?

後藤:今後の予定は?

今年の冬にモスクワでロシア語版の “Liquid land”を発表したいと思っているの。そして英語版をアゼルバイジャンに持って行きたい、今回は燃やされることことがないようにね。アゼルバイジャンとグルジアで見せることが出来たらと思っているわ。

観客:あなたの父親の対象は蝶で、彼は科学者として異なった種を採集しに出かけていました。異なった種を調べ、それを発見していった。しかし、あなたは現場に出かけ、そこで人間として同じ人間を見つめている。あなたの父が蝶を観察していたように、あなた自身も彼らに対して観察者であると感じますか?

ええ、とても観察者の立場であると思う。私が彼らの一員であるとは言えないでしょう、私はいい家に住み、ガスと電気のある生活を送っている、でも私は仕事として彼らの生活を観察し、尊厳を持ったポートレイトを作ろうと試みている。そちらの側から、私の理解というプリズムを通して、ジャーナリストとしてだけでなく、彼らを尊重しながら彼らの姿を見せていくことが私にとってはとても重要なことなのよ。

そこにあるものを捉えるだけでなくて、私にはなくすことの出来ない文化的な因習があるの。父と私の仕事の間には多くの類似点があるのだけど、それはこの本のもう一つの主題でもあって、テキストを読んでくれれば、この写真集が何についての本であるか理解出来ると思うわ。

後藤:今はどんな状況?

今はちょうど、アメリカに行く準備をしている、ダコタの特別保留地に住むネイティブアメリカンの生活について、美術館が公認した仕事をするためよ。そして、ナショナルジオグラフィックの仕事から戻ったばかりなのだけど、今、現在はヨーロッパで消失した水中の生活についてのプロジェクトを行っているところよ。次の夏にはそれを見ることが出来ると思うわ。

翻訳:川上紀子

 

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レナ・エフェンディ:これまで、原油産業が自国の人びとに及ぼす影響に焦点をあてて記録していた。この時、アゼルバイジャン、グルジア、トルコに繋がる原油パイプラインを辿り、6年間の記録をPIPE DREAMS: A CHRONICLE OF LIVES ALONG THE PIPELINEにまとめている。数々の世界的な写真賞を受賞。来る2013年度の世界報道写真賞の審査員の一人でもある。
http://www.refendi.com/

 

 

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日時:2012年12月16日(日)午後4時から午後5時頃まで
会場:reminders photography stronghold
参加費:500円(定員20名程度、RPSメンバー会員は無料)
司会:STRONGHOLD GALLERYキュレーター・後藤由美
ゲスト写真家:レナ・エフェンディ(アゼルバイジャンのバクよりスカイプ中継で参加)