【ぐるぐるができるまで③ 壁、壁、壁】松村和彦
このころ祖母が亡くなったことはストーリーに大きな影響を与えた。時は止まらない。命の灯は消える。けれども、命はつながっていく。そうした感覚を視覚化したいという思いは一層増した。
一方、ファーストダミーまでは比較的順調だったものの、それ以降は壁の連続だった。白黒写真はもちろん、家族の持ち物を白バックで撮ることや息子の落書きの撮影も始めた。ドキュメンタリー調の白黒写真だけではありきたりだという由美さんの考えを受けたものだが、集まった素材をどうまとめるのかについては全くアイデアがなかった。紙などの素材やプリント、製本作業などアイデアを具現化する知識がなかったことも問題だった。
そこでアイデアに関してはRPSが昨年12月に開き、オランダのブックデザイナー、トゥーン・ファン・デル・ハイデンさんとサンドラ・ファン・デル・ドゥーレンさんが講師を務めたPhoto Book Master Classに参加。製本については鈴木萌さんのワークショップや大阪の製本教室で勉強した。
素材についても紙を何十種類と小口で注文しては印刷テストした。見当外れな紙もいっぱい買った。けれども、その際いまいちだと思った紙と同系統の紙を後に写真集の一部に使うことになった。巡り巡って結局役にたったということはまだある。写真のアンティーク加工もその一つだ。写真集全体で使うことはなかったが、最後の最後で大事な役割を担ってもらうことになった。
今思えば失敗や無駄に見えたことが大切だった。でも、その時の僕はそんなことを知らない。「いつになったらできるのだろう」という不安で胸はいっぱいだったが、本作りに関するソフト、ハード両面を少しずつ学んでいった。