【クローズアップRPSメンバー連載コラム】写真家・岡田将 第二回「砂粒と写真」
「砂粒と写真」
友人と私は七里長浜で3時間ほど石を拾い続けた。赤い石、黒い石、緑の石、つやつやした石、ざらざらした石、手にとって気に入ればビニール袋に入れて、気に入らなければ元に戻した。波にさらわれた石がジャラジャラと心地良い音を奏でいた。想像もつかないほどのエネルギーと時間をかけて創造された石を拾う作業に没頭すると全てのストレスから解放されて無心になれる。
袋の重みが気になりだした頃、ふと目の前の砂が輝いていることに気づいた。水晶でも埋まってるのかな?と期待しながら砂を掘ってみたがそこには何も見当たらない。不思議に思い砂をすくうと、1ミリあるかないかというサイズの砂の粒子が太陽の光を反射して美しく煌めいていた。その瞬間、砂という存在は石が削れただけなのだという強い認識が自分の中に生まれた。私は砂を観察するため石とは別の袋に入れ、持ち帰ることにした。
旅行を終えて自宅でじっくり砂を観察すると美しい形の様々な粒子が存在していた。「世界の砂図鑑」という本を購入し、砂の世界を見るうちに、この一粒を高解像で大型にプリントして、砂とは認識できないような写真を撮りたいという衝動に駆られた。理工学系出身のカメラマンにアドバイスをもらい、マイクロスコープを製造販売をしている会社に電話をして相談に乗ってもらいながら、顕微鏡専用のフルサイズセンサーデジタルカメラを製造・販売しているニコンインステックという会社に辿りついた。通常の顕微鏡専用デジタルカメラだとせいぜい500万画素程度だが、ニコンインステックのカメラは1000万画素を超えるものだった。メーカーに売り込みをして特別に機材を使用させて頂くこととなった。
顕微鏡を覗くのは高校生以来のことだった。プレートに砂を広げて覗くと、とにかくピント(被写界深度)が浅いことが分かった。砂粒は1mm前後のものだが顕微鏡の世界では1mmすらも大きすぎるらしい。メーカーの方に相談をしながら高解像度の絵面を求めて撮影を進めていった。顕微鏡のZ軸(奥行き)を数ミリずつ動かし、ピントをずらしながらシャッターを切って、最終的にピントの合ってる部分だけを合成する被写界深度合成という技法を取り入れることで望んでいた高解像の写真を得ることができた。
(次回につづく)
バックナンバーを読む:
【クローズアップRPSメンバー連載コラム】写真家・岡田将 第一回「文章と編集」
岡田 将 写真展
砂の顔
http://www.nikon-image.com/activity/salon/exhibition/2016/11_bis.html#01
11/1 (火) ~11/7 (月)
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
会期中無休
11/5(土)12:30~13:30 ギャラリートーク開催
作者のプロフィール
岡田 将(オカダ ススム)
1984年東京都葛飾区生まれ。2006年日本写真芸術専門学校フォトアートコース菊池ゼミ卒業。07年日本写真芸術専門学校フォトアートコース菊池ゼミ研究科修了。
写真展に、12年「白い痕跡」(Juna21新宿ニコンサロン、Juna21大阪ニコンサロン)がある。
【このコラムについて】
RPSにはメンバーシップ制度があり内容にあわせて特典があります。メンバーシップの制度も2012年度の発足当時からありますが、有効な利用をしてくださってる写真家さんによるコラムの連載を不定期で始めることにしました。連載時期はメンバーシップの特典(RPSキュレーター後藤由美によるメンターシップ)を利用して結びついた成果がなんらかの形で露出する機会、例えば、写真展や本の刊行などをするタイミングにあわせて行う予定です。メンターシップを担当するRPSキュレーターの後藤由美が有効にメンターシップを利用され成果が著しいと手応えを感じた写真家さんをピックアップして連載のキュレーションをしていきます。その連載第一弾は11月1日からJUNE21枠で新宿ニコンサロンで展示が始まる岡田将くん。
コラムの内容は自由ですが、この一年で取り組んだことを振り返って写真数点とともに文章にしてもらっています。