ヤン・ラッセル写真展「ベルギーの秋、作られた歴史」
今年も手製本ワークショップのためにも来日している写真家ヤン・ラッセルの写真展開催のご案内です。
28部しか作られなかった彼の本「ベルギーの秋」こちらの普及版刊行を記念した展示にもなります。オープニングには写真家のヤンも参加して「写真家と写真集をレビューする日」もあわせて行います。みなさまのお越しをお待ちしております。
◎会期:2015年6月6日(土)〜6月28日(日)(午後1時〜7まで、会期中は無休)
◎会場:reminders photography strongholdギャラリー
◉2015年6月6日(土)午後4時オープニング
◉写真家と写真集をレビューする日および写真集販売あり:午後5時頃〜
◎ヤン・ラッセル(写真家)、司会進行:RPS後藤由美
※進行をスムーズにするために、当日通訳としてご協力して頂ける方は是非ご連絡下さい!
みなで意見の交換をする場を持ち、有意義な時間を作っていきたいと思います。
※参加ご希望の方はFacebookのイベントページで「参加」をして頂ければそれで大丈夫です。
ベルギーの秋、「作られた歴史」
2013年、オランダのハーグでたまたま見学に参加した写真集制作のワークショップで一人の写真家が声をかけてきた。話していると彼もちょうど本を作ったばかりで、その本「ベルギーの秋」は28部つくられたものだという。どうして28部なのかと質問をしていくと、その答えに衝撃を受けた。1980年代にベルギーのブラバントで起きた一連の襲撃事件を取り上げた本で、ニヴェールのギャング、またはブラバントの殺人鬼としてしられるグループによるその事件で犠牲になって死亡したのが28名、そのうちの一人が彼の父親だったというのだ。写真家が取り組む個人的なプロジェクトのリサーチを続けているが、これは究極的なケースだった。
このプロジェクトにはA confabulated history「作られた歴史」という副題がついていて、その意味は皮肉にも感じる。殺人鬼たちの存在ですら、政治的な関与が疑われるなど、今も謎が多く事実は闇の中に隠れたままである。
真実を調査することと同時に人類の脳の信頼性というものに惹き付けられ、全ての事は一瞬にして起こり、人間の記憶は曖昧なものであるが、過去の経験をどの様に保存し、記憶にある溝をうめるのか。記憶せねばならないことと、忘れてしまいたいことにどう折り合いをつけて写真に記録していくのか。
このことは純粋に写真そのものと性質が似ており、写真は瞬間を捉え、真実を曝す事もあれば、隠す事も出来る。事実を写し出している様で、その本質ではなく光と影を捉えているだけかもしれない。その間にある世界は実は曖昧な現実味を帯びないものだったりする。
「ベルギーの秋」は記憶を記号化したもの、あるいは暗号化したものでもある、という仮定のもと、起きてしまった過去の出来事、今はすでに撮れない事実を再構築する視覚的な記録作業が編み出した非常に貴重で秀逸なプロジェクトなのである。そして、暗号化された写真たちは静かに私たちにその謎解きを迫るのだ。
RPSキュレーター後藤由美
ヤン・ラッセルについて:
ベルギーにて1979年生まれる。現在ベルギーとオランダを拠点に活動。
ヤンはもともと料理人としてのキャリアを積み、フランス、スペイン、ニューヨークの有名なレストランで働いたあと、オランダにて中国語を勉強することを決意。中国での交換留学中にクラスで学ぶのではなく、ストリートに出て学ぶことを選ぶ。その際、カメラを持ち、中国の季節労働者たちの記録を開始する。その後、デンマークのthe Danish School of Media and Journalismでフォトジャーナリズムを専攻、オランダThe Royal academy of arts in The Hagueにてドキュメンタリー写真を専攻。オランダではおもに社会問題に注目して活動。これまでにオランダ、ベルギー、グルジア、アルメニア、パレスチナ、イスラエル、キューバ、ラオス、中国で撮影、社会問題の大小に関わらず、そのストーリーにもっともふさわしい伝え方とは何なのかを模索してきた。現在は歴史的な出来事、記憶認識に関するストーリーに取り組んでいる。