「終焉の近きぞと思う雲隠れ」(上竹真菜美との最近のやりとりから)
今回は2020年に実験的ワークショップアトラスラボ「ソーシャルポートレイト」を通して作品を知ることになった上竹真菜美さんとの「やりとり」をご紹介したいと思う。
今年に入ってから、上竹さんが単発で作品を見て欲しいと連絡をくれて、ワークショップ後(およそ1年半後)に作品を拝見することになった。単発とはもったいない、さほど変わらないのだから、メンターシップにしたらと提案した。ドイツKünstlerhaus BethanienのInternational Studio Programmeに参加するため、10月の終わりには出立するという彼女に、それまで有効に4回の相談を利用してみてと伝えて、久方ぶりに再会した。それから、およそ2ヶ月間の間に、合計で4回面談をして、彼女はそこまでで進んだダミーを見ながら、「何故、このタイミングで海外に行くことになったんだろう」と、このまま一気に完成してしまいたいというような様子、彼女なりのリズムを掴んだなと、そういう手応えを感じた、そして、ワークショップから現在までの経験を、是非文章にしてみて欲しいと伝えて、お別れをした。その宿題はドイツにまで持ち込まれたのだが、先日久方ぶりに訪れたパリ・フォト期間中にも、ドイツからやってきた彼女と現地で会うことが出来た。帰国後まもなくして、この「やりとり」の文章と写真が届いていた。(RPS後藤由美)
以下より
RPSを知ったきっかけは、2018年に千賀健史さんの個展を観に行ったことでした。
そのときに千賀さんからRPSについてのお話を聞き、帰宅してからホームページでワークショップの説明などを読み、おもしろい場所があるんだなと興味を持ったことを覚えています。
実際にワークショップを受講したのは、それからしばらく経った2020年3月のことでした。その冬に滞在していたベルリンでのアーティスト・イン・レジデンスを終える頃、日本に帰ったらどうしようかと計画を考えていたときに参加者を募集していたのが、RPSの「ソーシャルポートレイト」をテーマにしたワークショップです。
私はそれまで、2014年ごろから父親のポートレートを撮り続けていたのですが、プロジェクトとしてまとまったものではありませんでした。ただ溜まっていく写真を扱いあぐねていたので、何かヒントが見つかればと思い、帰国してまもなくワークショップに参加しました。
ワークショップはとても刺激的でした。合計4日間という日数の短さから当初予想していたものをはるかに超える収穫があったと思います。
ワークショップではまず、参加者のそれぞれが持ち込んだプロジェクトの写真を壁面に貼っていきました。私はその時点で何も指針を持っていなかったので、私の壁面にはやたらとぱっと見のインパクトが強い、父親の顔のアップのカットが多かったと思います。写真のサイズやレイアウト等もバラバラで、非常に見づらい状態でした。自分でも何をしているのかよくわかっていないことは伝わる、ある意味で素直なプレゼンテーションではあったかもしれません。
参加者が写真を貼り終えたところで、講師陣を交えた全員で順番に写真を見ていきました。そのときにとても興味深かったのが、由美さんの写真の読み方でした。他の参加者の壁面を見たときに、ぱっと見ただけではテーマや内容がよくわからないことがありました。ですが、由美さんがその中からいくつか選んで並び替えたり、いらないカットを取り除くなどの編集を行うと、それが一瞬で激変しました。私では読み取れなかった作品のメッセージや魅力が、由美さんが手を加えることで一気に立ち上がったわけです。自分の作品に対するコメントはもちろんですが、特にワークショップを通して由美さんのそうした編集の過程を見ることによって、自分の思考もクリアになっていったように思います。
また、その後に行った受講生同士でペアを組み替えながらお互いの作品を編集するという作業も、思考を整理していく上でとても参考になりました。10人の参加者のそれぞれの作品に対し、他の参加者から9通りの異なる案が提示されるわけですが、ここでもやはり、同じ作品が編集という作業を通してがらりと変わる過程を目の当たりにしました。自分が他の参加者の作品を編集するときには、その作品が向かうべき方向を考え、どうすればそれがうまく表現できるのかを考えることになります。それを短い時間で9回繰り返すわけです。それだけでも大変な作業だったのですが、同時に自分の作品に対して提示される数々の案にも向き合わなければなりません。他の参加者が提示した見せ方はどれも自分では考えつかないもので、自分がそれを気にいるか気に入らないかは関係なく、その人がなぜそのような見せ方をしようと考えたのかを想像することが、自分の作品を客観視するのに役立ったと思います。
途中で追加の撮影なども行いながら、ワークショップを終える頃には、作品がはっきりと展開していました。
ただし、私の場合はそこで完成には至らず、あくまである方向性の可能性が見えたという感触でした。まだ完成させるには素材が足りないと感じ、ワークショップで得たヒントをもとに撮影を続けようと思っていたのがそのときです。
ですが、その頃はちょうど新型コロナウイルスが猛威を奮っていた頃で、緊急事態宣言などもあり、被写体であった父親に会うことは控えざるを得ませんでした。父親は重い病気を抱えていたので、感染が命取りになる可能性があったためです。
また、その時にはすでに翌年にドイツに戻ることが決まっていたのですが、やはり新型コロナウイルスによる渡航制限のせいで具体的に先の予定を立てることができず、しばらく身動きの取れない時期が続きました。
そうしているうちに、今年の春に父親が突然亡くなりました。もともと抱えていた病気が直接の原因ではない、予想外のタイミングでの死でした。
葬儀を終え、以前父親との2ショットを撮った場所に遺骨を置き、同じ構図で最後の2ショットを撮りました。そのときにようやく、自分が向かうべき方向性が確定したように感じました。
RPSに戻ったのはその後のことでした。東京に戻り、作品を一から組み直した私は、由美さんに単発のメンタリングをお願いしました。その時にはすでにドイツへの渡航日の2ヶ月前だったので、次のメンタリングをお願いすることになったとしても、その短い期間ではどこまで進められるかわからなかったからです。
久しぶりに由美さんに作品を見せて、やはり正しい選択だったと思いました。自分ではもうこれ以上は進めないというところまで進んだつもりのものを持っていったのですが、そこからさらに先の道を提示していただき、これならまだ進めると、改めて残り2ヶ月での集中的なメンタリングをお願いすることになりました。そうして結果的に、2ヶ月で4回のメンタリングをしてもらいました。
メンタリングではさまざまな観点からのアドバイスをいただきました。私の場合は、最終的には本にすることを目標にして制作を進めていたのですが、構成などの内容についての話だけではなく、製本や紙についてのテクニカルなアドバイスももらっています。それまでまったく知識がなく、どこから手をつけていいのかもわからない状態だったのですが、おかげで手がかりが掴めました。
そして、4回のメンタリングを終えたときには、やはり作品が大きく進展していました。初めてワークショップに参加したときとは別物になっていると感じます。
そのまま完成まで作業を進めたかったのですが、それはいったんドイツにまで持ち越すことになってしまいました。最後のメンタリングを終えてから間もなくベルリンに戻り、最近ようやく身の回りが落ち着いたところです。
まだこちらで制作を進める上でわからないことも多く、手探りの状態はしばらく続きそうなのですが、また由美さんにメンタリングをお願いしながら、こちらでもやっていけたらと考えています。
写真家:上竹真菜美
現在、Reminders Photography Strongholdでは2021年1月に開催する実験的ワークショップアトラスラボ「眼光紙背に徹す」参加申し込み受付を行っております。締め切りは11月30日。皆様のご応募お待ちしております。
また、ワークショップ以外にも年間を通してご相談を受けるメンターシップの制度もあります。こちらは日程を調整していただけるものになります。実際の面談、オンラインで対応可能です。そちらもご検討下さい。
https://reminders-project.org/rps/membershipjp/