インタビュー第4弾:AIR 3331について

本記事は、Reminders Photography Stronghold(以下RPS)スタッフの久光がふとしたご縁で繋がった写真界の最新の動きや取り組みをその中心となっている人物に取材、紹介していく不定期連載です。今回で第4弾となります。

多様性を受け入れ、表現の場や作家の活動の選択肢を広げていくこと、写真を学ぶ私自身にとっても、将来に繋がる可能性を連載を通じて感じ取っていけたらと思っています。RPSの活動報告ではありませんが、写真を通して自己表現しようとする人たちに参考になる内容を取り上げていく予定です。

今回は2019年5月3日よりオープンコールが開始された「AIR 3331」について、アーツ千代田 3331でPRを担う岩垂なつきさんとインターナショナル コーディネーターのエミリー・マクドウェルさんに詳しいお話をお伺いしました。


[AIR 3331とは]
「AIR 3331」とはアーツ千代田 3331によるアーティスト・イン・レジデンス(Artist in Residence=AIR)プログラムである。国内外からさまざまなアーティストを受け入れ、東京の中心で滞在・制作・発表ができることをねらいとして誕生した。短期(1ヶ月)・長期(2ヶ月・3ヶ月)のプログラムがあり、これまでに写真、映像、デザイン、演劇、音楽、建築など様々な分野のアーティストが参加してきた。

アーツ千代田 3331はアートギャラリー、オフィス、カフェなどが併設され、展覧会だけでなくワークショップや講演会といった文化的活動の拠点として利用されており、周辺地域との関わりも深い。

2019年4月には岩本町に新拠点が設けられた。1階にシェアスペースとしてのスタジオ、3~5階には参加アーティストが滞在可能なレジデンスが用意されている。

「AIR 3331」のプログラムにはアーツ千代田 3331のほか、岩本町のスタジオおよびレジデンスを利用できるプランもある。

先日「AIR 3331」の参加作家3名によるオープンスタジオが岩本町の1階のスペースで開催されていた。月に1度、制作スペースで交流するイベントを開催しているそうだ。
来場者の顔ぶれは国内のみならず、様々な国の大使館関係者やアーティストらが集まっていた。
今回の出展者はイギリス、オランダ、ブラジル出身の作家たちでそれぞれドローイング、刺繍、グラフィックと手法も様々。ただ、共通していることは「日本(東京)」が題材という点であった。


[求める作家]
「AIR 3331」は選考に経歴を問わない。若手でもキャリアのあるクリエイターでも受け入れ、また様々な分野からの参加が可能だ。
近年ではキャリアのある作家が自国で助成金を得て「AIR 3331」に参加するケースも多く見られるという。

では、主催側はどのような作家を求めているのだろうか。
応募用紙欄には「なぜ東京でプロジェクトを進めるのか」という項目があり、その点は特に重視をしているそうだ。
応募に対する明確な理由とプロジェクトの方向性を明らかにすることが必要だ。また、東京で、さらにAIR3331で制作することが作家にとって有益かどうかも判断のポイントだという。

先に紹介した「AIR 3331」での参加者は国籍、日本での滞在期間も様々であったが、皆が日本(および東京)を題材にした作品を発表していた。それぞれの視点から捉えられた「日本」は国内にいる我々にも自国を省みる機会を提示し、影響を与えうることを実感した。
オープニングで開催されたトークの中で3名の内2名の言葉に「枯山水」というワードが含まれていたのが印象的であった。翌年に控えた東京オリンピックの準備が進められている今、古きを重んじる日本の文化に目を向けつつ、自らの目が捉える「東京」と「儚さ」に焦点が当てられていた。


2018年3月にRPSで開催された実験的ワークショップアトラスラボ「AKINA BOOKSワークショップ:静と動〜映画的な編集とダミーブック〜」の参加者の1人、カトリーヌ・ロングリーも「AIR 3331」のプログラムの過去の参加者だ。
日本社会の特定の背景における食べ物と身体との関係性を問い、証言、写真、イラスト、記録画像を織り交ぜた作品を手がけた。
彼女の作品は2016年2月と9月の2度にわたる「AIR 3331」の滞在制作によってリサーチされ、2018年にRPSでのワークショップへの参加でさらに発展、2018年9月には写真集「To tell my real intentions, I want to eat only haze like a hermit」の販売が開始された。
2019年には再び来日し、ベルギー フランス語共同体政府 国際交流振興庁(WBI)後援の元、RPSにて公開プレゼンテーションが開催され、喜ばしいことに写真集は完売となった。


[地域文化との関わり]
アーツ千代田3331のある神田・秋葉原エリアはかつては江戸の町であった。東京の中心という環境であると同時に江戸の文化を味わえるという点もこの地域で滞在するメリットといえよう。
街中では今年5月に2年に一度の神田祭りが催され、江戸っ子たちが神輿を担いで街を練り歩く姿が見られるなど、今もなお伝統文化が残っている。
アーツ千代田 3331では神田祭りの開催に合わせた展示を開くなど地域との関わりも持っている。祭りの終わりには一本締めが行われ、「AIR 3331」の作家はそういった伝統的な文化にも触れることができる。
海外の作家が地域になじみながら生活できるという点もまた1つのメリットだ。そして地域と触れ合うことで彼ら自身が東京を新たな視点で見つめることも可能にしている。

またアーツ千代田 3331を活動の拠点としているひとりに、現代美術家の日比野克彦さんがいる。彼の行っている活動に「明後日朝顔プロジェクト」というものがある。これは地域の人とアーティストが一緒になって朝顔を育てるというもので、「AIR 3331」の作家も参加することがあるという。このように「AIR 3331」のアーティストは国内の作家との繋がりを持つことも可能だ。

「AIR 3331」の作家の滞在にはアーツ千代田 3331のエミリーさんをはじめ、多くのスタッフによるサポートもある。世界各国から作家が集まるため、言語の壁はあれど、コミュニケーションを重ね、日々その結びつきを強くしていると言う。
また過去にアーティストとして活動していたスタッフも多く、アーツ千代田 3331のみならず、国内のアート界の様々な繋がりも持っているため、各作家に合うコンペティションや発表の場を紹介、提案することもあるそうだ。


RPSでもこれまでにペルー出身のGiancarlo Shibayamaや、オーストラリア出身のTammy Lawらが写真集制作のために滞在し、作業を行う作家がいた。彼らの自国では手に入りづらい紙や素材が日本国内では簡単に手に入ること、そして集中して作業できるスペースがあるということは、より良い作品を制作することにつながった。
RPSではレジデンスプログラムはないが、上記のような特例は設けている。
また、現在開催中の写真集制作ワークショップ「Photobook as object」や毎年10月に開催している「Photobook Masterclass」では世界各国から写真家が集まり、ワークショップに参加をしている。彼らは滞在中にワークショップを受講するほか、日本で手に入れることができる様々な本の材料に触れることができ、作品の可能性をさらに広げているといえる。

今回のインタビューでは、自国の活動のみにとどまらず自分の領域を国外へと広げることでさらなる発展を望めると改めて感じる機会となった。

「AIR 3331」のレジデンスプログラムのオープンコールはすでに開始されており、締め切りは7月5日(金)日本時間の18時まで。ぜひご検討してみてはいかがだろうか。
またお知り合いに興味のある方がいればぜひ情報共有をしていただきたい。


文責・写真:久光 菜津美
編集:岩垂 なつき、松村 和彦

過去のインタビュー記事はこちら
第1弾:写真家のオーディション:SHINESについて
第2弾 : GWEN LEEさん:DECK、シンガポール国際フェスティバルについて
第3弾 : 梁丞佑×後藤勝 「写真家、その数奇な人生」