鈴木麻弓エッセイ THE RESTORATION WILL ① 父のレンズ

Reminders Photography Stronghold Gallery、2017年度の企画展第一弾には鈴木麻弓写真展『The Restoration will』を開催いたします。鈴木麻弓は2016年度にRPSにて開催されたPhotobook As Objectワークショップで写真集プロジェクト『The Restoration will』に取り組みました。今回は東日本大震災から6年を経て、鈴木が写真家としてたどり着いた手製本の刊行およびその世界観をご覧頂く写真展になります。展示に先がけ、展示作家鈴木麻弓によるエッセイの連載を開始いたします。第一回目は「父のレンズ」です.

鈴木麻弓写真展「THE RESTORATION WILL」
日時:2017年3月4日(土)~2017年3月26日 (日)(※13:00~19:00、会期中無休、入場無料 )
◎◎オープニングレセプション、およびアーティストトーク:2017年3月11日(土)午後6時から
開催場所:Reminders Photography Stronghold Gallery
更なる詳細はこちらから。

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© 2017 Mayumi Suzuki / The Restoration Will

父のレンズ

私の父、佐々木厚は肖像写真を専門とする写真家で、宮城県女川町で写真館を営んでいました。日本人にとって、結婚式や、赤ちゃんの誕生、卒業入学式など、家族の記念写真を撮ることは大切な習慣です。私の父はそのような仕事をし、地域の人々と良い関係を築いてきました。彼は常にシノゴと呼ばれる大判カメラを使用し、ネガフイルムで撮影をしていました。

津波から2週間経った時、私は姉と一緒に初めて女川に戻りました。津波によって町の70%が破壊されており、多くの建物が壊れ、ほとんどの家がなくなっていることが信じられませんでした。そんな中でも私の写真館は、暗室の部分だけが残っていたのです。そして私は父の大判カメラ、中判カメラ、35mmカメラ、いつくかのレンズ、ストロボ、三脚など家の近所で見つけました。ここに写真館があったことを示しているように感じ、両親が「ここにいたんだよ」と言っているような気がしました。

2015年冬から2016年にかけて、私は拾った父のレンズ、180mm/F5.6 Rodenstockで撮影をしてみました。大判カメラはあまり使ったことがなかったし、港の近くで寒かったので、撮影の準備をするのにとても時間がかかりました。シャッターは壊れていましたが、蓋でレンズを開閉して露光し、なんとか撮影することができました。それらの写真は暗くてブレていて、まるで死者が見ている景色のようでした。暗くないと撮影できなかったので(シャッターを自分でコントロールするには昼間は明るすぎて無理でした)、夕方から夜にかけて撮影をしていると、私は孤独を感じ、時々怖くなりました。そこがたくさんの人が津波で亡くなった場所だったからかもしれません。風の冷たさは、あの日の津波の冷たさを思い出させました。

この状況は私の作品において、とても意味を持つようになりました。このレンズを通して、私は違う視点、つまり死者の視点というものを感じるようになりました。そして両親と会話をしているような、そんな気持ちになれたのです。

鈴木麻弓

次回へ続く