髙木佑輔 ×AKINA Books代表 アレックス・ボケット トークイベント

2018年3月3日~21日まで髙木佑輔 写真展「KAGEROU」が開催されました。最終日にはAKINA Booksの代表、アレックス・ボケット氏をお招きし、トークイベントを開催致しました。その内容を一部、記事として公開致します。


【AKINA Books】
今回、晴れて出版が決定した「Kagerou」はAKINA Booksより刊行されました。AKINA Booksはアレックス・ボケット氏、ヴァレンティナ・アベナヴォーリ氏によって2012年にイギリスのブリストルで創設されました。

同年12月に印刷機器を導入したことから彼らの活動は本格化していきます。機器を導入した理由としては、自分たちの本を作りたいと思った時に業者を介して作成したものに満足できなかったことでした。思った以上に費用がかかることや、何よりも写真集を作品として扱いたい自分たちにとって様々な面でベストな選択をすることができなかったのです。

「AKINA」と名付けたことに関してアレックス氏は特に意味はないといいます。日本では馴染みのある名前として知られていますが、ヨーロッパに住む彼達にとっては、全く意味や理由を持つものではなかったのです。

今まで出版してきた本の中でお気に入りはあるか?という質問に対しては「ない」と一言。それはいつも作っているものがベストで、それは作成(出版)するごとに常に更新されていく。もしもお気に入りができてしまったらその先、本を作ろうとしないだろうといいます。しかし大事な記憶としては残り続けていると言いました。自分が関わりを持って作っているので本は人生そのもの、本を作ることは自分の人生と切り離すことはできないのです。

 


そんなAKINA Booksからこの度、髙木佑輔 写真集「Kagerou」は刊行されました。

髙木さんは当初、アーティストブックとして手製本の製作を予定していました。しかし2017年度のFUAM Istanbul Photobook Dummy Award で特別賞を受賞したことをきっかけに出版が決定します。それはこれまでRPSでワークショップを受けた方の中では前例がないものでした。AKINA Booksでの出版はファーストエディションである事が条件にあったことも理由となります。

出版には様々な段階を踏む必要があり、完成までの月日は想像以上だったと言います。
AKINA Booksでは年に作れる本は3~4冊程度。一つの本を作る時にはその本に対して100%を注ぐため、その分時間はかかるのだとアレックス氏は言いました。
出版の時期は東日本大震災を受けて始まったプロジェクトということもあり、3月に出版が決まります。

本作りはより良い本を作りたいと願う出版社と作家の本への強い理想、力と力のぶつかり合いです。AKINA Booksは商業向けにやっているのではなく理想に近づくことを主題としているためにそれはなおさらなのです。


【本完成までの試行錯誤】
本の完成までには様々な課題や壁がありました。
髙木さんが提案した内容に対して彼がなぜそれにこだわるのかを、アレックス氏は初めは理解できなかったといいます。髙木さんにとっては状況を経験した当事者で意味を理解しているかもしれませんが、アレックス氏にとっては必ずしもそうではなかったのです。そのため話をしてみることで理解して初めてその意味にたどり着いたのでした。

まず、本の構成上の問題です。
髙木さんとしては福島の写真の背景は白、東京の背景は黒にとの考えがありました。しかし折丁を組んでいくとどうしてもそれが実行できないページが生まれました。
そのため福島の写真でも黒の背景に写真を配置し、代わりに白のフレーミングをすることに。
また白の背景に東京の写真(本来は背景が黒)がくるページについては爆発によってそれらの法則が崩れてしまったことを示し、新聞で事象が明らかになったことによりその法則を取り戻していくという編集となりました。

©︎Yusuke Takagi / Kagerou

また新聞の前後で写真のサイズを変えることや、華やかな花火とそれを眺める子どもの後ろ姿。花火は原子力発電のメタファーとなり、綺麗で人々を魅了するものでも危険な一面をもっていることを提示しました。それらはダミーブックでは組み込まれていない点でした。

変更を余儀なくされた点、実行できなかった点についても、編集者と作家との話し合いによって新たな道筋を生み出すこととなるのでした。

それらは写真集を見てくれた人のすべてが汲み取ってくれるとは限りません。しかし作家の中でその方法にした理由がきちんと明解にあることこそが重要なのです。

 

【ダミーブックからの変遷】


髙木さんが作製していたダミーブックの表紙は抽象的な写真のものでした。しかしAKINAから出版されたものは1枚の分かりやすい写真となりました。表紙のイメージは大きな変化となりましたが、ダミーブックを作成してた時に、構想としてその写真を象徴的なイメージとして使用するアイデアがあったので、変更に対する懸念はありませんでした。

また商業的な面としてもインターネットでの販売を想定した際に、画面上で見た印象やAKINA Booksから既に出版されている本に表紙が似ていないこと。そして表紙が的確に内容を提示しているか、人の記憶に残るかということも重要な点となりました。

表紙に斜めのデザインが多く適用されていることに関しては本のテーマともなっている「境界線」を意味しています。斜めである事が歪みをあらわし、社会をいびつに捉える作家の心情を写し出しています。

©︎Yusuke Takagi / Kagerou

写真にかかる白線は表紙の中に白の要素を入れる事で、グラデーションを生むためでした。白は希望を示し、この先被害が止まることの願いが込めてられています。そしてその線が非常に脆いことが、その危うさや将来の不確かさを提示しているのです。

そしてカバーの布部分にあたる文字については、レーザープリンターによって1冊につき2度プリントされています。そのためわずかなズレが生じ、ぶれているような出来になっています。布のような厚みのあるものにプリントすること自体が新たな試みで、完成までに2台のプリンターが故障したとの裏話もありました。

©︎Yusuke Takagi / Kagerou

サイズ感の違いについてはダミーブックに比べて全体的に小さくなっています。それは理由の一つにコストの問題がありました。判型は2cm大きくなるごとに価格が2倍になります。また今回出版された250部はオフセットとしては小ロットでの印刷となりますがプリントの質を優先した結果オフセットの印刷となりました。
また髙木さんの作品の傾向として、判型を小さめにすることでハンドサイズとなり、より親密性を高めることができます。それは手元に残る本としては重要な要素でした。

©︎Yusuke Takagi / Kagerou

 

〈こぼれ話〉
▷消えたあとがき
ダミーには本の体裁を整えた8番目のダミーから最後まであとがきを挿入していました。前書きもなく、分かりづらい内容の本だったので説明を加えつつプロジェクトにとりかかる動機を記していました。

AKINA Booksとの初期のやり取りで、あとがき削除の提案を受けました。曰く、ダミーを見てもらった人々のリアクションを見ていると、興味深く本のページをめくっていたのにも関わらず、あとがきを読み終えると納得し、本を見返すことなく読了してしまう人が多かったということでした。
この本の特徴の1つは、通称マッシュルームと呼ばれている核実験の連続写真が説明もなく展開され、マッシュルーム爆発と日英の新聞記事により「何を」を削除し、題材が明らかになります。つまりあとがきを省くと題材だけが明らかになる以外、全てのストーリーを読者に委ねる形となります。
タイトルは日本語、カバー写真もミステリアス、文中の説明はなしと、外国人にとっては何の本なのか全くもって謎に包まれた写真集となりました。
たった1ページの説明、けれども本の構造としては核となる部分でしたが、提案を受け入れました。実験的な手法に共感する部分があったとともに、この写真集をミステリアスなものにしたいという作家の希望にも沿う形となりました。

▷息子の写真の登場位置
ダミーでは息子の写真は前半のマッシュルームの段階で登場していましたが、AKINAエディションでは爆発後から登場します。時系列の整合性を整えるとともに、あとがき削除に伴う無用な混乱を避ける狙いがあります。

▷ラストの変化
ダミーでは最後のページ(背表紙裏)には展示のメイン写真にも使用した写真を見開きで使用しました。
インパクトが強い写真なので主張をするには最適でしたが、余白という観点から見ると少々見劣りします。
ダミーを作り始めた2年前、完成した1年前ではそれで良かったのですが、時間の経過と、今回の主人公である息子の成長とともに、余韻を残したいという思いが強くなり、ラストのシークエンスを変えました。
結果的にダミー全体を覆っていた暗部が薄れ、希望を残す編集となりましたが、今の自分の心境を表すものになったのではないかと思っています。

©︎Yusuke Takagi / Kagerou

 

髙木佑輔 写真集「Kagerou」は現在もオンライン販売を行なっております。
またギャラリーでも実際にお手に取ってご覧いただけます。
詳細はこちらから;https://reminders-project.org/rps/kagerousalejp/

文責:久光菜津美
編集:髙木佑輔