REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #2 ASYLUM OF THE BIRDS

RPS図書室に所蔵されている写真集、いつも「新しいのが入りました!」とか「写真家の方から寄贈されました」とご紹介するのが精一杯でしたが、これから不定期で写真集図書室に集まっている写真集についてのレビューを更新していこうと思います。レビュアーも好みや視点が偏らない様に、数名の写真家、写真専門家がとりあげて行きます。不定期になりますが、今後の更新をお楽しみに!第二弾は写真家でRPS ISO100メンバーの幸田大地君によるレビューとなります。

“ASYLUM OF THE BIRDS”
by Roger Ballen

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まず、タイトルとともに、表紙に使用されている写真が目に飛び込んできます。一瞬、その画面の持つ奇怪さが、見る者を心理的に揺さぶってきます。おそらく読者は、この揺さぶりの正体が一体何なのかという事を確かめたくなるのではないでしょうか。そして、次々に立ち現れてくる画面にさらに揺さぶりの追い討ちをかけられるはずです。

ページごとに、淡々とレイアウトされている写真は、静かでいて、一貫した世界をしっかりと構築しています。一つの画面の中で構成されたある断片は、イメージを重ねるごとに、より強く、そこに在る世界を感じさせます。
見る者は、一枚一枚の画面のすべてを、くまなく「見ること」を求められる一方、画面は、それ自体が一体何なのかという問いに、なかなか答えてはくれません。
むしろ、私達の多くはそのイメージに、強力に跳ねつけられるというような印象を受けるのではないでしょうか
奇妙なバランスや、配置。意味不明のオブジェとフォルム。そうした、理解し難さに私達は、あっという間にイメージに置き去りにされしまいます。
それは私達が普段何気なく接し、そして加担する正しさや美しさという、基準を確信犯的に、そして巧妙に脱臼させうるものがその画面に含まれているからでしょう。
私達をいつの間にか覆いつくしている正当という概念は、いともたやすく跳ねつけられ、目の前に提示されているイメージが見せるものに翻弄されてしまうのです。もちろんそれは、画面そのものの持つ力が可能にしていることです。

しかしそこには、冷たく突き放すような分断はありません。歩み寄ろうとすれば、常に開かれ、むしろ温かく私達を迎え入れてくれる印象を持ちます。なぜならば、そこには私達の中にも本来あったはずの、知らず知らずのうちにどこか脇へと追いやってきた、より自由で奔放な感情の在り方が投影されているからではないでしょうか。その鳥達の避難所には、本来私たち自身に含まれるもの。しかし、私たち自身の手で葬り去られようとしている、私達の本質的な一部分が含まれているからでしょう。

イメージの持つ効果をより強固にしているのが、これらの写真が『作り物』ではなく、“現実に、存在している場所で撮られた”という事実でしょう。つまり、Roger Ballenの写真は、彼の個人的な妄想によって再現された空想ではなく、紛れもなくわれわれが属している現実と接続したドキュメントであるという事です。もともと、絵画も描いていたRogerにとって、写真を撮るという行為はドキュメントであるという事の必要性へと直結しているのかもしれません。
初期のRogerの作品はどちらかと言えばストレートなポートレートの作品で構成されているものでした。そこから、現在の作品スタイルへと移行していくわけですが、私の目から見れば、そこには写真家の一貫したコンセプトが存在しているように思えます。そして、スタイルの変化の中でそれはより鋭利に、また洗練され、深化したもののように思えます。クラシックではありますが、私達の日常生活に作用する政治的な力への、メタフォリカルであり、且つシニカルな逆説的批評が存在しているように思われます。

表紙の写真に戻ってみると、そこには、鳥を捕らえ貪り食う、仮面をかぶった人間の姿と、背景には空を飛び回る飛行機のようで鳥のような、落書きとも言える絵が描かれています。鳥を貪り食うのは一体誰なのか?そして、鳥は一体誰なのか?
それはシンプルで巧妙なメタファーであると私には思われます。

個人的な話ですが、最初に写真を見たとき、Diane Arbusの写真を始めていたときのような印象を抱きました。画面の質はまったく違ったものですが、その政治性やおぞましさを扱うという点で、リンクしたのかもしれません。Diane やRogerのまなざしは、世界の二重性へと向けられます。しかし、それは決して大きな声で、左翼的なスローガンを叫ぶものではなく、実に温かく親密なまなざしによって成し遂げられてきたのだという事が、画面によって証明されます。大きな日常の政治の問題を、より個人的で、親密なレヴェルに落とし込むことに成功したのが、この“ASYLUM OF THE BIRDS”ではないでしょうか。

幸田大地(写真家)

◎reminders photobook review #1 NUOTRAUKOS DOKUMENTAMS / PHOTOGRAPHS FOR DOCUMENTS レビュアー:後藤勝(RPS所長)