吉田亮人:写真集『The Absence of Two』ダミーブックの変遷について
2016年度に実施された写真集制作ワークショップPHTOOBOOK AS AN OBJECTの参加者吉田亮人さん、ワークショップで最終的に参加者の皆さんにご提案するのは実際に本を作り、それを人に届けること。RPSのワークショップでは当たり前の事ですが、ワークショップが終了してからも、試行錯誤を繰り返し、ダミーを作り続けます。吉田さんも1年以上の時間をかけその作業を繰り返しました。そして、ようやく最終形に辿り着いた本の形で111部を制作することを決めました。111部全て、印刷から製本まで作家の手によって作り出されていきます。細部にまで考え抜かれたこだわりを作家が実現し、人に届けることに大きな意味があるためです。この刊行を記念し、RPSでは8月に写真展を開催しております。会期は残すところわずかとなりましたが、会場では作家が在廊時に印刷や製本作業をしています。ご訪問時には直接、聞いてみたいことや感想など是非気兼ねなくお声がけ頂けたらと思います。
今回は会場の中央のテーブルに展示されている写真集のダミーから完成に至るまでの変遷について、RPSインターンの久光菜津美が取材し記事としてまとめましたのでご紹介しておきたいと思います。
吉田亮人:写真集『The Absence of Two』ダミーブックの変遷について
吉田亮人さんが「The Absence of Two」の写真集をつくる中で大きく変わった事はコンセプトにある。
はじめは従兄弟である大輝さんの死の真相、彼の死は何だったのか、という極めて個人的なことを主題としていた。それをまとめる中では、彼の死にまつわる資料のリサーチを繰り返した。現場である森の中を写真におさめるほか、地図やその土地の自死率などをリサーチ。ダミー本の1〜2冊目はそのようにして制作された。
3冊目以降からは資料を段々と減らしていく。それはやはりテーマが彼の死についてではなくなったことが理由だ。物語を語る上で資料は必要なくなったのだ。提示されたのは、2人が支え合って過ごしてきた時間とそれが突然なくなってしまったという事実の痕跡だった。
「今回のテーマが家族という個人的なものだったために写真と自分というものを客観性をもって見つめることが非常に難しかった。そのためワークショップで後藤由美さんに間に入ってもらい、話をしたりアドバイスをもらうことで、自分の表現したいことへの方向性を定めていくことができた。」と言う。
モニター上だけではわからないことをダミー本を作ることによって知る。写真イメージや字の大きさ、物理的に感じる本の重み、ページをめくる時のリズム。それらひとつひとつによって見え方・伝わり方が大きく変わることを実感した。そしてそのダミー本を「繰り返し作る」ことで作品の方向性を見つけることができたのだ。
祖母が一人きりになってしまったあとも数多くの写真を撮り続けていた。最愛の人を失くしてしまった祖母のその姿は撮影者としても苦しく、つらいものだったが、その姿こそいつか自分にも訪れるであろう姿であり、残すべき姿と感じ撮影し続けた。しかしその無数の写真は写真集の最終ページの1枚のみに集約された。だだっ広い畑の中で何かを暗示するかのようにたたずむ祖母の姿のみだった。すべてを説明しきってしまうよりも、鑑賞者への余韻や余白、想像の余地を残したのだ。
タイトルにも変遷がある。ダミーを作る中で「Falling leaves」に決まりつつあった。それは森の中で自死を選んだ彼の視線やアイロニーを込めたものであった。しかし写真集を制作する過程で、祖母までも亡くなったのだ。そして不在だからこそ写真の中にいる2人の存在を強く感じることになり、それを示したのが「The Absence of Two」このタイトルだったのだ。
また展示と写真集とでは違いがある。
展示では「体感」として感じること。写真集では「ディテール」を感じること。写真集は色んなレイヤーを語りやすいのだ。
どちらも伝えている物語は同じであったとしても感じ方に差がある。今回の展示では同じ空間で二つの方法で提示した。その差を行き来し、鑑賞者は追体験をしていく。
このプロジェクトによって形は違えども、誰しもに訪れるであろう出会いや別れを、写真という媒体を通して自分自身のためにも表現をしまとめたのだ。
取材撮影・文:久光菜津美 (RPSインターン)