鈴木麻弓エッセイ THE RESTORATION WILL ② 青いポートフォリオ

Reminders Photography Stronghold Gallery、2017年度の企画展第一弾には鈴木麻弓写真展『The Restoration will』を開催いたします。鈴木麻弓は2016年度にRPSにて開催されたPhotobook As Objectワークショップで写真集プロジェクト『The Restoration will』に取り組みました。今回は東日本大震災から6年を経て、鈴木が写真家としてたどり着いた手製本の刊行およびその世界観をご覧頂く写真展になります。展示に先がけ、展示作家鈴木麻弓によるエッセイの連載を開始いたします。第二回目は「青いポートフォリオ」です.

鈴木麻弓写真展「THE RESTORATION WILL」
日時:2017年3月4日(土)~2017年3月26日 (日)(※13:00~19:00、会期中無休、入場無料 )
◎◎オープニングレセプション、およびアーティストトーク:2017年3月11日(土)午後6時から
開催場所:Reminders Photography Stronghold Gallery
更なる詳細はこちらから。

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© 2017 Mayumi Suzuki / The Restoration Will

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© 2017 Mayumi Suzuki / The Restoration Will

青いポートフォリオ

今から23年前の1994年、私の父は個人的な作品づくりとして、復元船サンファンバウティスタ号を建造した船大工の肖像を撮影していました。職人魂に心を動かされた父は、彼らに一番いいスーツを着てくるようにお願いし、毎週日曜日にスタジオに呼んでモデルになってもらいました。知っての通り、船大工たちは普段は作業着であるため、スーツを着ることが滅多にありません。父は彼らを単に大工ではなく、一人の人間として捉えようとしたのです。写真の中の船大工たちはどの人も大統領や大臣のように見えました。最終的にこのシリーズは約50名のポートレート作品となりました。

2004年、父は「20世紀の匠たち」というタイトルで個展を宮城県石巻市で開きました。その準備のため、父と私は朝から晩まで、毎日暗室に入ってプリントをしました。16×20インチ(小全紙)のバライタ紙だったので、水洗や乾燥に時間がかかって大変でした。そこで私はイルフォードのRC紙/多階調/ウォームトーン、という印画紙を父に提案しました(当時私が好んで使っていた印画紙です)。こうして写真の大学で学んできたことを父に伝え、一緒に暗室作業ができることを、父はとても誇りに思ってくれているように感じました。

 2011年の津波ですべての作品が流されてしまいましたが、その直後にどなたがか船大工のポートフォリオを瓦礫の中から拾ってくれました。避難所の側に開設された写真修復センターに行くと、そのポートフォリオが私の手元に戻ってきたのです。それを受け取った時、「父の写真が残ってるなんて!」と涙が溢れました。「きっと父の遺志に違いない。できるだけ早く洗ってなおさなくちゃ」
ですが、写真は泥や油、多くの海水を含んでいて、洗浄するには難しそうでした。

ポートフォリオの中にはバライタ紙とRC紙の両方が入っており、結果的に、RC紙のプリントは修復でき、父の撮影した船大工が9枚蘇りました。表面がつるつるしていてプラスチックでコーティングされているのが幸いしました。残念なことにバライタ紙の方はぐちゃぐちゃになって画像が失われつつあり、見方を変えれば、それは現代アートの絵画のようにも見えました。バライタの方は手製本の中に「復元しようした」形で収めています。(鈴木麻弓)

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© 2017 Mayumi Suzuki / The Restoration Will

鈴木麻弓

次回へ続く

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鈴木麻弓エッセイ THE RESTORATION WILL ① 父のレンズ