齊藤幸子写真展「Not now but one day」6/28-7/6
2025年度6月の企画展として、齊藤幸子による写真展「Not now but one day」を開催いたします。
本作は、埼玉県川口市に暮らすクルド人コミュニティをテーマにした作品です。齊藤は2018年、日本における難民認定率の極端な低さに問題意識を抱いたことをきっかけに、在日クルド人の存在を知りました。当初は単純に「難民のクルド人」という認識を持っていた彼女ですが、川口に暮らすクルド人の人々と出会い、写真を通して関係を築くなかで、その魅力と複雑な現実に触れ、撮影を重ねてきました。
2020年からは、Reminders Photography Strongholdの後藤由美によるメンターシップのもとで作品を発展させ、2022年には「PHOTOBOOK AS OBJECT」ワークショップに参加。写真集の制作にも取り組んできました。
何度も試行錯誤を重ね、ようやくかたちになったアーティストブック『Not now but one day』は、93部限定の特別エディションとして刊行されます。本作に出てくるクルド人の中で最も長く日本で暮らしている男性の来日年――1993年にちなんで制作された本作には、写真とともに、齊藤がこれまでに出会った言葉や出来事の断片が丁寧に綴られています。
世界難民の日にあたる6月20日より先行予約を開始し、会期中は会場でもご覧いただけます。
展示初日となる6月28日(土)14時からは、作家によるアーティストトークを開催します。作品制作の背景や、取材を通して見えてきた在日クルド人の姿、そして写真集に込めた思いを、作家自身の言葉で語る貴重な機会です。制作プロセスを知ることで、展示空間がより深く立体的に感じられるはずです。どうぞお見逃しなく。
また、展覧会のクロージングにあわせて、7月5日(土)14時からは、作家が長年取材を続けてきた在日クルド人の方々をゲストに迎えたトークイベント「Not now but here ―― 在日クルド人が生きる現在地」を開催します。
仮放免の状態で日本に暮らし続ける彼らが、自らの言葉で語る日常、葛藤、希望――その声に耳を傾けることで、私たちが暮らす社会のありようを改めて見つめ直す機会となるでしょう。
この日、この場所だからこそ実現する対話の時間に、ぜひご参加ください。
写真展、アーティストブック、トークイベントに関する詳細は、FacebookやInstagram等でも随時お知らせいたします。皆さまのご来場を、心よりお待ちしております。

©︎Sachiko Saito / Not now but one day
「Not now but one day」
埼玉県川口市には、トルコから来日したクルド人のコミュニティがある。その多くは日本で難民申請をしているが、日本における難民認定は極めて少なく、クルド人で認定されたのは、裁判を経たわずか1人にとどまっている。多くの人が、審査中に付与される在留資格、あるいは仮放免という不安定な立場で日々を過ごしている。
仮放免者には住民票がなく、就労の禁止、居住地からの移動制限といったさまざまな制約が課される。たとえ日本で生まれ育った子どもであっても、同様の扱いを受ける。それでも彼らがトルコへ戻れない事情は深く、切実だ。
2024年には、難民申請者の状況をさらに厳しくする内容を含んだ出入国管理法が全面施行された。庇護を求めてきた人々に対して、日本社会のまなざしは一層冷たさを増している。今この国で、多くの人々が「一時的」なまま取り残され、先の見えない日常を生きている。
このプロジェクトのタイトル「Not now but one day」は、ある青年をインスタントカメラで撮影した際に、彼がノートに書いたトルコ語「Bugün değil ama elbet bir günの英訳である。「いまじゃないけど、いつか、だから、頑張りな」。そう思いながら、彼は日々を生きていた。
絶望と希望のあわいに揺れながら、それでも生きるしかない。そんな言葉にならない思いを胸に、多くの人がこの社会のなかで暮らしている。ときに頑張れず、ときに刹那的に。そうした揺らぎや脆さ、人間らしさに触れるたびに、私は彼らの複雑で多層的な姿を、写真を通して丁寧に伝えたいと思うようになった。
在日クルド人の人々と出会い、彼らの声を聴き、日常に寄り添うなかで、私はこの国の移民政策の実態とともに、その制度の背後にある個人の記憶や感情にも光を当てたいと考えるようになった。
本作が、この社会にともに暮らす私たちが、互いの存在に目を向け、対話を始めるきっかけとなることを願っている。
齊藤幸子
齊藤幸子写真展「Not now but one day」
◎会期:
2025年6月28日(土)〜 7月6日(日)13:00~19:00
会期中無休・入場無料
◎オープニングレセプション / アーティストトーク:
2025年6月28日(土)14時から
※展示は13時よりご覧いただけます。
◎クロージングセッション・トークイベント:
2025年7月5日(土)14時から
「Not now but here」――在日クルド人が生きる現在地
◎会場:
Reminders Photography Stronghold Gallery
東京都墨田区東向島2-38-5
(東武スカイツリーライン曳舟駅より徒歩6分・京成曳舟駅より徒歩5分)
※このほか、期間中にトークイベント等を追加開催する可能性があります。最新情報はSNSをご確認ください。

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day

©︎Sachiko Saito / Not now but one day
齊藤幸子| プロフィール
日本を拠点とする写真家。1985年生まれ。作品制作における主なテーマは人間、土地、歴史。個人が社会や歴史的背景によってどのような影響を受けるのかに関心を持つ。