【クローズアップRPSメンバー連載コラム】写真家・岡田将 第三回「壁と枷」

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「壁と枷」

 高解像度の砂粒を撮影することができた私はそれをコレクションすることで一種の満足感を得ていた。この写真だけをたくさん展示したら爽快だろう。そんなことばかり考えていた。RPSで写真を編集する作業に移った。ひとまず展示を目標に作品製作しているということは伝えていたのだが、砂の写真だけ展示することを考えていると伝えたところ、即座に「やめたほうがいい」と言われた。その理由は単純明快だった。
鉱物が好きな人ならまだいいけれど、写真がそれだけだと伝わる人が少ない。その上、写真としても広がりが見られないし面白みが少ない。岡田さんの表現したいことが伝わりにくい。」そういった理由だった。

 確かに世の中、鉱物が好きな人だけとは限らない。人類の歴史は鉱物(宝石・貴金属・レアメタルなど)なしには成り立たないと考えているが、だからと言って全員が鉱物好きとは限らない。自分が見ている・考えている世界はあくまで一面にしか過ぎない。話し合いを続けるうちに、私という人間は今回の作品を通して境界線や分類・世界の多面性について表現しようとしている。ということが浮き彫りになってきた。自分という殻は外部から何かしらの衝撃があったほうが破りやすい。

 作品に関する文章作りも大変勉強になった。思いついたことを文章化する作業は普段から行っていたのだが、それを見せたのは友人以外では後藤さんが初めてだった。友人であっても理解してくれる人は少なかった。誰しも自分の本音を他人に見せるというものは恥ずかしいものだと思う。だが作品で表現するということはそこを抑えていては何もできない。恥ずかしいという思いに加えて、写真でそういったことを表現していいものなのか?もっと社会問題について言及しなければいけないのではないかという思いが常に付き纏っていた。表現は自由なのだと頭では理解していながらも心では納得できないでいたが、後藤さんにそれを伝えると「そんなの、岡田さんが好きな表現をすればいいんですよ。そんな決まりはどこにもないんだから。」と強く説いてくれた。自分の中の枷がひとつ外れた音がした。

 同じテキストファイルの中に自身の作品に関する文章を書いては改行する。その行為を繰り返していった。文章をプリントしては添削された。写真はしっかりとしたプリントをせずにL版よりも少し大きいくらいのサイズで安い普通紙にプリントして、切っては並べて、編集していった。パソコン上ではなく、実物でその行為を繰り返すことで自身の写真の全体像を隅々までより明確に知ることができた。写真家は編集段階で1枚1枚をきちんとプリントし過ぎる人が多い。それを行うと作品の仕上がりや思い入ればかりに目がいって全体像を掴み損ねる。それに気づいた時、20代中盤から長く感じていた壁を乗り越えることができたと実感することができた。

(次回につづく)

バックナンバーを読む:
【クローズアップRPSメンバー連載コラム】写真家・岡田将 第一回「文章と編集」
【クローズアップRPSメンバー連載コラム】写真家・岡田将 第二回「砂粒と写真」

作者のプロフィール
岡田 将(オカダ ススム)
1984年東京都葛飾区生まれ。2006年日本写真芸術専門学校フォトアートコース菊池ゼミ卒業。07年日本写真芸術専門学校フォトアートコース菊池ゼミ研究科修了。
写真展に、12年「白い痕跡」(Juna21新宿ニコンサロン、Juna21大阪ニコンサロン)がある。


【このコラムについて】
RPSにはメンバーシップ制度があり内容にあわせて特典があります。メンバーシップの制度も2012年度の発足当時からありますが、有効な利用をしてくださってる写真家さんによるコラムの連載を不定期で始めることにしました。連載時期はメンバーシップの特典(RPSキュレーター後藤由美によるメンターシップ)を利用して結びついた成果がなんらかの形で露出する機会、例えば、写真展や本の刊行などをするタイミングにあわせて行う予定です。メンターシップを担当するRPSキュレーターの後藤由美が有効にメンターシップを利用され成果が著しいと手応えを感じた写真家さんをピックアップして連載のキュレーションをしていきます。その連載第一弾は11月1日からJUNE21枠で新宿ニコンサロンで展示が始まる岡田将くん。

コラムの内容は自由ですが、この一年で取り組んだことを振り返って写真数点とともに文章にしてもらっています。