野村幹太 写真集「吉田寮旧暗室」ご注文受付中
ただいまより、野村幹太 写真集「吉田寮旧暗室」のご注文受付を開始いたします。
野村は、現存する学生寮としては日本最古、築108年の歴史を持つ京都大学吉田寮の記録を続けるなか、寮に現存する旧暗室を発見しました。この暗室に残された印画紙に、これまで野村が記録した写真を現像することで吉田寮という場所に堆積した時間や記憶をも焼き付けようとしました。
野村はRPSのメンターシッププログラムを受け、2018年3月にRPSにて開催された実験的ワークショップアトラスラボ「AKINA BOOKSワークショップ:静と動〜映画的な編集とダミーブック〜」で作品「吉田寮学生寄宿舎史」に取り組みました。吉田寮の存続に関する状況が変わっていくなか、その流れとともにダミーの制作を続け、完全手製でアーティストブックとして106部制作しました。その本は、2020年、LUMA RENCONTRES HISTORY BOOK AWARD ARLES(フランス)、2021年、Paris Photo-Aperture Foundation Photobook Awards(パリ・ニューヨーク)などでショートリスト選出をはじめ多数受賞。 CESURA(イタリア)の記念すべき第一回ANDY ROCCHELLI GRANTを受賞し、現在、普及版出版の準備が進行中です。
今回はその続編ともなる作品「吉田寮旧暗室」の写真集となります。
吉田寮の暗室の扉を初めて開けたのは2019年の春だった。この暗室は、30年以上も誰にも顧みられることなく、埃をかぶり不用品置き場のようになっていた。実際、わたしが吉田寮の写真を撮り始めてから既に10年以上経っていたが、暗室の存在を知りつつもなかなか扉を開ける気にはならなかった。
長い廊下の先のひときわ暗い場所にあり、扉の隙間からこちらを覗く闇は秘密めいて不気味であったからだ。
そのときはふいに訪れた。暗室の固い扉を押し開ける。薄暗がりの中、破れた暗幕から漏れる一筋の光に埃が静かに舞っている。永い時間が真空パックされたような静謐だが重い空気。ある時を境にうち捨てられた乱雑さ。そして瓦礫のような粗大ゴミの合間から、埃や黴に覆われた当時の印画紙を見つけた。
たくさんの時間を吸い込んだ古い印画紙に、吉田寮の写真を新たに焼き付けたらどうだろう。そう思い立ってこれまで長い間顧みられることのなかった旧暗室を、もう一度暗室として使えるように修復した。
そうしてこの特別な暗がりの中で、プリントを開始した。
古い印画紙は現像液の中で銀粒子の上に像を結んだ。印画紙の感光剤が劣化したのか黒の濃淡や像の鮮明さがいつもの仕上がりと違う。もどかしいがそれは自分が撮った写真に何かが重なる不思議な感覚だった。
この場所に積み重なった記憶に向き合うような、また私の十余年の記録が過去の記憶と焦点を結ぶ気がした。学生寮の中にありながらこの隔絶された空間は未明になるとさらに静寂が深くなる。
芝居の始まりの合図のように暗幕の隙間から朝日がほのかに漏れ始めた。
長い廊下にはまだ冷えた夜気が横たわっていた。
文:野村幹太
野村幹太 写真集「吉田寮旧暗室」
◎ページ数:194ページ
◎サイズ:205mm x 263mm x 35mm
◎重さ:830g
◎表3に使用されているカットは108部全て画柄が異なります。
◎価格:14,300円(消費税込、別途送料についてはこちらをご確認下さい)
◎コンセプト、ストーリーライン、アートディレクション:後藤由美(リマインダーズフォトグラフィーストロングホールド)ご注文を頂き、お振込の確認が出来次第発送させて頂きます。
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