REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #5 津軽 / TSUGARU
RPS図書室に所蔵されている写真集、いつも「新しいのが入りました!」とか「写真家の方から寄贈されました」とご紹介するのが精一杯でしたが、これから不定期で写真集図書室に集まっている写真集についてのレビューを更新していこうと思います。レビュアーも好みや視点が偏らない様に、数名の写真家、写真専門家がとりあげて行きます。不定期になりますが、今後の更新をお楽しみに!第五弾は写真家の木村肇さんによる第二回目のレビューとなります。取り上げているのは富谷昌子さんの「津軽」です。
尚、7月の週末には富谷昌子さん、木村肇さんを招いた本に関するイベントが予定されていますので、是非、お楽しみに。
Tsugaru
By Masako Tomiya
津軽という言葉を聞くと自然と頭に浮かぶイメージがある。それは太宰治でも岩木山でもなく、ある故人が撮った一枚の写真だ。吹雪いた一本道の上を蓑を羽織り背中を丸めて歩く人々、曇りのグラデーションの隙間から光が刺そうとするその瞬間、被写体と写真家は一体と成ったのかもしれない。小島一郎の没後43年目に青森県立美術館のある一角でその写真と対面した時の気持ちは今も鮮明に思い出す事ができる。
僕は富谷昌子という写真家がその7年後、即ち彼の死後半世紀を経て奇しくも同じ題名の写真集を出版し、いま正に自分の目の前にそれが在る事が不思議でならない。
そして、ゆっくりとページをめくる度に表面には出てこない深い部分で彼女と彼は繋がっているとさえ感じてしまう。
故郷とは一体何なのか。この2人の写真家は違う時代、違う目線を持ちながらもこの命題を見るものに考えさせてくれる。
写真は所詮彼ら彼女らの目線の作り物というのは、いささか陳腐な表現かも知れない。2011のあの日以降、数多の写真がこの世から消え、また数多の写真が世の中に溢れかえった。しかし、各々の目線や思いできりとられたそれらの写真は時に人の心の拠り所となったに違いない。そして郷愁やノスタルジーという枠組みをいとも簡単に突き破って今、故郷という存在は僕たちの目の前に大きく横たわっている。
ここでまた、僕は彼女の写真を見返してみる。そこには彼女にとっての故郷、彼女の目線の故郷が存在する。
確かな事は、その目線の先に存在する何か、被写体と写真家が一体と成った先の作り出すイメージが、僕をあの雪の日の美術館の一角で見た故郷にゆっくりと呼び戻してくれる、という事である。
木村肇(写真家)
これまでのフォトブックレビューはこちら
◎reminders photobook review #1 NUOTRAUKOS DOKUMENTAMS / PHOTOGRAPHS FOR DOCUMENTS レビュアー:後藤勝(RPS所長)
◎reminders photobook review #2 ASYLUM OF THE BIRDS レビュアー:幸田大地(写真家)
◎reminders photobook review #3 PIECES OF BERLIN 2009-2013 レビュアー:木村肇(写真家)
◎reminders photobook review #4 Blind Date レビュアー:八尋伸(写真家)