REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #31 Continental Drift

恒例の写真家によるブックレビュー。今回はRPS不定期イベントとなる「3BOOKS」で紹介された写真集を紹介します。
「3BOOKS」のテーマは林田真季の『Almost Transparent Island』に因んで「Social Landscapes」となりました。つまり風景が孕む過去と現在の構造について考え、土地の背後にある歴史、社会的な問題を意識し反映したプロジェクトに関するものです。写真家木村肇さんに持参頂いたのが、スイス人のアーティストデュオTaiyo Onorato & Nico Krebsによる『Continental Drift』(2017)です。下記が本人によるレビューとなります。どうぞご一読ください。

©Natsumi Hisamitsu / Reminders Photography Stronghold

Continental Drift

2007年、カザフスタンとウズベキスタンの国境。アラル海底付近を歩いていた記憶がある。元遊牧民の運転手は目を細めて遠くを眺めていた。
暑かった。垂直に射し込む光が白く反射して、砂漠と雲の境目が消えていた。初めて蜃気楼を見た。
20年前そこは海だった。

「草原の道」。モンゴルから天山山脈北麓の草原地帯、アラル海北方を経由してロシアの黒海に至る路。紀元前5世紀にギリシャの歴史書に記された世界最古の交易路は19世紀に再びその渦中に登場することになる。
後のシルクロードのひとつとして知られることになるこの路が、モンゴル帝国の栄華の中心に関わっていた事はあまり知られていない。国を跨ぐ事が当たり前だった時代。最古のグローバリズムを支えていた「まつろわぬ民」はいつからかノマドと呼ばれるようになり、現在その役目を静かに終えようとしている。

1987年製のランドクルーザーは草原の道を西から東に向かっていく。資本主義社会が作り上げて来たシステムのタイムラインに逆らうように作者はその歴史の移ろいをフィルムに収めていった。国を跨ぐこと。それは僕たちがインターネットから無意識に選別している「旅」という幻想に再び肉体を憑依させる行為に近いのかも知れない。無機質に映る精密なモノクロの景色と粗いカラーの16ミリフィルムに刻まれた過去の記憶の滲みは、作者が彼らと対話をしたリアルな旅の痕跡に他ならない。近代建築を模したチープな建造物もアップルの服を着ている人もモンゴル相撲をとる男たちも、等間隔に並ぶ送電線もボヤけたネオンライトも、移ろわない単調な景色も全て。
5万キロの旅路が教えてくれたもの。それは過去の僕たち自身が辿ってきた時間。そしてやがて来る幸せな末路である。

資本主義社会の趨勢が作り出した近未来は、同時にデジタルノマドを生み出した。草原の道はいつしかレアメタルベルトに姿を変えつつある。歴史や伝統の書き割りの向こう側でノマドはいつでもこちらを見詰めている。決して過去に戻ることを許されない未来の僕たちを。

1987年、アラル海北方のバイコヌール宇宙基地でソユーズTM-11が打ち上げられる計画が持ち上がった。数年後、乗組員のひとりに日本人が初めて選ばれた。

木村肇(写真家)

【タイトル】Continental Drift
【Photographs by】Taiyo Onorato & Nico Krebs タイヨ・オノラト&ニコ・クレブス
【出版社】Editions Patrick Frey
【出版年】2017年

タイヨ・オノラト&ニコ・クレブス プロフィール
1979年スイス生まれ。2人組のアーティストユニット。ベルリンを拠点に活動。スイスのFotomuseum Winterthurでの個展ほか、欧米を中心に多数のグループ展に参加。Foam Paul Huf Awardやイエール国際モード&写真フェスティバルのグランプリなど受賞多数。主な写真集に『LIGHT OF OTHER DAYS』2013や『Lightning Tree』2014、『The Great Unreal』2015など。

3BOOKSのテーマは「Social Landscapes」 取り上げられた全23冊
©Natsumi Hisamitsu / Reminders Photography Stronghold

3BOOKSで、木村肇さんが取り上げた3冊
・Taiyo Onorato and Nico Krebs「Continental Drift」
・Adam Broomberg and Oliver Chanarin「DODO」
・Antoine D’agata「Odysseia」

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