鈴木萌 写真展「底翳 SOKOHI」12/12~12/27まで
2020年度最後の企画展として鈴木萌 写真展「底翳 SOKOHI」を開催いたします。
鈴木は2019年に開催された写真集制作ワークショップ「Photobook as Object」に参加し、本作品の制作に取り組んできました。
同居する父親が緑内障によりだんだんと視力を失っていく様子を目の当たりにする中、視力が失われるとはどのようなことか、その事実と本人がどう向き合っているのか、晴眼者の鈴木には容易には想像しがたいが、想像せずにはいられない父親の内面を表現した作品です。他者には見えるが父親には見えない、あるいは彼が見ているようには他者が見ることができない世界を、静かに体験するような表現を試みています。
会期中には、初日にFacebook経由でのオンラインアーティストトークを配信いたします。
また本展開催に合わせて、写真集「底翳 SOKOHI」を刊行いたします。現在ご予約を受け付けております。詳細はこちらからご覧ください。
写真展の詳細はFacebook等で随時お知らせいたしますので、ぜひご期待ください。
皆様のご来場、ご高覧をお待ちしております。
「底翳 SOKOHI」
「底翳」(そこひ)とは、底にある翳、眼球内に潜む翳、つまり何らかの眼内部の異常により視覚障害をきたす目の疾患の俗称として江戸時代から使われてきた。そのうち、緑内障にあたる言葉は「青底翳」(あおそこひ)と呼ばれた。末期には角膜が地中海のように青緑色のようになり失明するという、ヒポクラテスの記述に語源があるとの一説もある。そうした長い歴史にも関わらず、現代の視覚障害の一番多い原因疾患である緑内障の病態は、その原因や治療法にいたるまでいまだ完全な解明がされていない。
14年前に緑内障の診断を受けた父の場合も、点眼薬や手術による眼圧のコントロールの甲斐無く、視野狭窄がゆっくりと、そして確実に進行している。昨日よりも少し暗い朝に起き、物を取ろうとする手は宙を泳ぐ。
父はかつて、ありとあらゆるものをノートに書き留める人だった。旅先で写真もたくさん撮った。50年以上にもわたる編集者としてのキャリアは、常に膨大な本と文字に囲まれていた。そんなかつての生き方とは裏腹に、緑内障により少しずつ視力を失いつつある今は、書くことも読むことももはやその意味をなさなくなってしまった。
視野が狭くなっていく自分の境地を、静かに淡々と受け入れているかのように見える父はその一方で、差し込んでくる光を離すまい、失うまい、と必死で病の進行に抗う一面をふとした瞬間に外に出すことがある。だが自分の周囲に壁をしっかりと築き、父が見えないものが見えて、父が見ているものを同じようには見ることができない他者からは単なる同情や共感を簡単には寄せつけない。
その壁の隙間からそっと覗くと、そこには、底に潜む翳の淵を時には頼りなく、しかし時には新しい認知を求める確かな足どりで、出たり入ったりする父の姿が見え隠れする。父の失明への旅は、まるで翳と光の間を行ったり来たりする波のように進んでいる。
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鈴木萌 写真展「底翳 SOKOHI」
◎会期:2020年12月12日(土)〜 27日(日)
13:00~19:00 会期中無休、入場無料
◎Facebookライブ配信アーティストトーク
2020年12月12日(土)午後7時~
◎開催場所:Reminders Photography Stronghold Gallery
住所:東京都墨田区東向島2-38-5
(東武スカイツリーライン曳舟駅より徒歩6分・京成曳舟駅より徒歩5分)
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プロフィール | 鈴木萌
1984年東京都生まれ。 London College of Communications, University of the Arts London 卒業。2012年よりブックアートのレーベル「バニヤンブックス」を立ち上げ、ブックアート作品制作及び、国内外アーティストのアーティストブックの製本に携わる。これまでの作品に、様々な形態の共同生活を取り上げた「他人とシェアする生活」や思考経路の視覚化を試みた「sketchbook thinking through」がある。本作品「底翳 SOKOHI」はKASSEL DUMMY AWARD 2020の最終選考に選出された。
http://www.banyan-b-i.com