鈴木萌写真展「底翳 Chose Commune Edition出版記念展」10/31-11/6 & 11/16-20
Reminders Photography Stronghold 2022 年度企画展第3 弾として鈴木萌写真展「底翳・Chose Commune Edition 出版記念展」を開催いたします。本展は8月にRPS 京都分室パプロルで開催された出版記念展の東京巡回展となります。
鈴木は2019 年にRPSで開催された写真集制作ワークショップ「Photobook as Object」に参加し、進行性の緑内障によりだんだんと目が見えにくくなる自身の父親の物語をテーマに制作に取り組み、2020 年にアーティストブックを発表しました。その後同作品はKassel Dummy Book Awardの特別賞やMACK FirstBook Award のショートリストを経てLuma Rencontre Dummy Book Award 2021 を受賞。2022 年にはRencontres Arles とルマ財団の協力のもと、フランスの出版社ChoseCommune より新たな編集で普及版が刊行されました。本展示では2020 年出版のアーティストエディションから、どのような編集のプロセスを経て新装版の「底翳」が作られたのか、その制作の舞台裏や、今年新たに制作された映像インスタレーションをご覧いただける展示となります。ぜひこの機会に展示、写真集ともにご高覧ください。
作品ステートメント:
「底翳」(そこひ)とは、底にある翳、眼球内に潜む翳、つまり何らかの眼内部の異常により視覚障害をきたす目の疾患の俗称として江戸時代から使われてきた。そのうち、緑内障にあたる言葉は「青底翳」(あおそこひ)と呼ばれた。末期には角膜が地中海のように青緑色のようになり失明するという、ヒポクラテスの記述に語源があるとの一説もある。そうした長い歴史にも関わらず、現代の視覚障害の一番多い原因疾患である緑内障の病態は、その原因や治療法にいたるまでいまだ完全な解明がされていない。
16年前に緑内障の診断を受けた父の場合も、点眼薬や手術による眼圧のコントロールの甲斐無く、視野狭窄がゆっくりと、そして確実に進行している。昨日よりも少し暗い朝に起き、物を取ろうとする手は宙を泳ぐ。
父はかつて、ありとあらゆるものをノートに書き留める人だった。旅先で写真もたくさん撮った。30年以上にもわたる編集者としてのキャリアは、常に膨大な本と文字に囲まれていた。そんなかつての生き方とは裏腹に、緑内障により少しずつ視力を失いつつある今は、書くことも読むことももはやその意味をなさなくなってしまった。
視野が狭くなっていく自分の境地を、静かに淡々と受け入れているかのように見える父はその一方で、差し込んでくる光を離すまい、失うまい、と必死で病の進行に抗う一面をふとした瞬間に外に出すことがある。だが自分の周囲に壁をしっかりと築き、父が見えないものが見えて、父が見ているものを同じようには見ることができない他者からは単なる同情や共感を簡単には寄せつけない。
その壁の隙間からそっと覗くと、そこには、底に潜む翳の淵を時には頼りなく、しかし時には新しい認知を求める確かな足どりで、出たり入ったりする父の姿が見え隠れする。父の失明への旅は、まるで翳と光の間を行ったり来たりする波のように進んでいる。
文:鈴木萌
◎会期
<第一期>2022年10月31日(月)〜11月6日(日)午後1時から7時まで
<第二期>2022年11月16日(水)〜20日(日)午後1時から7時まで
※11月7日〜15日の間、ギャラリーはクローズとなりますのでご注意ください。
◎イベント
<Reminders Photography Stronghold 10周年レセプション及びアーティストトーク>
11月3日(木・文化の日)午後7時頃から
オープニングレセプション、アーティストトークでの飲食の提供はございません。
マスクの着用、手洗い、消毒等、感染拡大防止にご協力をお願いいたします。
◎会場
Reminders Photography Stronghold ギャラリー
東京都墨田区東向島2−38−5
作家プロフィール
東京都出身。London College of Communications, University of the Arts London卒業。2011年日本への帰国を機に製本技術を取得し、ヴィジュアルアーティストとしての活動を開始する。写真/アーカイブ/イラスト/製本技法/インスタレーションを織り交ぜながら、障害や共同体の歴史、環境汚染、開発などにより変化する記憶や認知に関するナラティブを表現している。2020年に発表した作品「底翳(SOKOHI)」は東京のReminders Photography Stronghold を皮切りに、北アイルランド、シンガポール、京都、オーストラリアなどで展示された。