千賀健史写真展「 Hijack Geni」6/11-26まで
Reminders Photography Stronghold Gallery 2022年度の企画展第2弾として、千賀健史 写真展『Hijack Geni』を開催いたします
千賀は「happn」(2015)を皮切りに「Bird, Night and then」(2017)、「The Suicide Boom」(2019) と、入念なリサーチに基づいて作り上げた視覚表現を複雑に組み立てながら、貧困格差、自殺などの現代社会における影を革新的な切り口から表現してきました。Reminders Photography Strongholdでは3年ぶりの開催となる千賀の最新作は、自らの家族がターゲットとなったことをきっかけに取り組み始めた「オレオレ詐欺」をテーマに、3年の時間をかけ丹念に作り上げた集大成と言えます。「オレオレ詐欺」という言葉の裏に隠された、あるいは私たちが知らず知らずのうちに目を逸らしている、『何が真実で何が嘘か、段々と分からなくなる』複雑な社会を表す、千賀の最新作をぜひご高覧ください。
本展開催に合わせて、アーティストブック「Hijack Geni」を刊行します。5月初旬よりプレオーダーの受付を開始する予定となっておりますのでご注目ください。また、アーティストトークは会期初日となる6月11日に行います。オンラインによる配信は予定しておりませんので、ご希望の方は是非会場でご参加下さい。参加に予約等は不要です。今後の写真展の詳細はFacebook等で随時お知らせいたしますので、合わせてご確認下さい。皆様のご来場、ご高覧をお待ちしております。
また、展示にさきがけて、アトラスラボワークショップ実験的ワークショップアトラスラボ「ビジュアルストーリーテリングをパッケージ化する」参加申し込み受付中(4月30日締め切り)です。皆様のご参加をお待ちしております。
https://reminders-project.org/rps/atlaslab-12/
【Hijack Geni】
水に浸かった紙はあっという間にほろほろと崩れだし、さっきまでそこにあった姿はもう記憶の縁でゆらゆらと変化している。そこにあったのは一体何であったのか。
2003年、いわゆるオレオレ詐欺が世の中に知れ渡りだした頃、この犯罪はいわゆる裏社会の人々によって行われていた。それが今や犯罪とは無縁に生きてきた”一般人”がその要ともいえる存在となってしまっている。
詐欺といえばそもそも一部の暴力団では、外道の行いとして禁止されていたような犯罪である。それを、”仕事”として行うものが後を絶たない現代社会は極めて異常である。
2019年、数々のルポやインタビューを読みながら加害者側の置かれている状況や心理について共感するものを感じながらも遠くで起きている物語として受け止めていたのだが、ある日、両親と話していて母親が特殊詐欺グループのターゲットである事を知ることで、自分の中で被害を受ける者としての矛盾する気持ちが生まれ始めた。
2020年、撮影期間中は詐欺グループの一員のような日々を過ごしていた。隠れ家に使えそうなホテル、オフィス、カラオケボックスを巡り、詐欺電話がかかってきている地域をウロウロしたり、コインロッカーからコインロッカーへ荷物を運んでみたり、犯行に必要な道具を買い集めてみたり、高齢者に会いに行ったり、電話をしてみたり、ATMで30万円おろしてみたり。実際に犯罪行為をしているわけでもないのに、やたらと人の目が気になり緊張した事をよく覚えている。何が真実で何が嘘か、段々と分からなくなっていった。
2021年、詐欺グループがさまざまな役割を演じるように、自分の顔を元に90名の高齢者と若者の架空のポートレートを作成した。
自分であって、自分でないその人物はまるで本当に存在しているようで、彼らの仮名を考えている間にその人物像はますますリアルになっていった。
そうして本作中のイメージを水溶紙に印刷して、溶かし、全て無かったことにしているとなんだか少しホッとした。詐欺グループも証拠隠滅している時はそんな気持ちだったかもしれない。
2022年、そうして出来上がった矛盾と嘘の塊が本作である。
想像の中で私は加害者であり、被害者でもあったが、現実では第三者である。溶けて見えなくなってしまった彼らを包摂する水だ。ゆらゆらと揺れる私たちの中に見えるものはなんだろうか。
千賀健史 写真展「Hijack Geni」
◎会期:2022年6月11日(土)〜 26日(日)
13:00~19:00 会期中無休、入場無料
◎アーティストトーク
2021年6月11日(土)午後7時~
※オンライン配信の予定はございません。アーティストトークをご希望の方は、是非会場にご参加下さい。予約等は不要です。
◎開催場所:Reminders Photography Stronghold Gallery
住所:東京都墨田区東向島2-38-5
(東武スカイツリーライン曳舟駅より徒歩6分・京成曳舟駅より徒歩5分)
1982年、滋賀県に生まれる。大阪大学卒業。
目に見えないもの、撮影が困難なものをコンセプチュアルな手法で視覚化することを得意とする。
リサーチを中心としたドキュメンタリー作品を制作し、インディペンデント・キュレーターの後藤由美氏に「日本の現代社会、文化、歴史の問題を世界に向けて視覚的な物語として提示したい時に思い浮かぶ写真家の一人であり、複雑な物語構造を視覚化する能力は他の追随を許さない」と評され、手作りの写真集もダミーブックアワードなどで高く評価されている。
第16回フォト「1_wall」でグランプリ、「The Luma Rencontres Dummy Book Award Arles」でショートリスト入り、「Dali International Photography Festival」で最優秀新人写真家賞を受賞し、2021年British Journal of Photographyが選ぶ今年注目の写真家に選ばれている。
作品の一部は清里フォトアートミュージアムのパーマネントコレクションとして収蔵されている。