第20回RPSグラント受賞者:イオアンナ・サケララキ
2019年6月に申し込みが締め切られた第20回RPSグラントにて受賞者が決定しました。イオアンナ・サケララキのプロポーザル「The Truth is in the Soil」です。審査員は、ペギー・スー・アミソン、アレクサ・ベッカーマリー・レリーヴル、トゥーン・ファン・デル・ハイデン、ステートン・ウィンター、アンドレイ・ポリカノフ、エリック・ブルーン、エメリン・ヤング、ジュゼッペ・オリヴェリオの9名です。
2020年には写真展の開催も予定しております。ぜひご期待ください。
The Truth is in the Soil
3年前に父が逝去したあと、私はふるさとであるギリシャへと帰国した。私はそこで、宗教的伝統と文化的信仰の幅広いシステムに基づいて機能する社会の中に保護を求める信者、という母の振る舞いを私は模倣した。
写真は喪失を通して成りたつという疑問へと変化し、それは不在と存在の境界域の中に道を作った。
プロジェクトが進行するなか、かつてのギリシャの嘆きの源にインスパイアされながら、私はギリシャのマニ半島に住む最後の職業的泣き女たちの伝統的なコミュニティの中に住み、死別と深い悲しみの痕跡を捜した。
マニ半島は息を呑むような断崖と古風な沿岸の村々で知られているが、そこは古代から続く伝統的な嘆きの儀式のふるさとでもある。
嘆き悲しむことによる殯は芸術ととらえられており、中心となる歌い手が哀悼を始めると合唱隊がそれに続くという、ギリシャ悲劇の聖歌隊へと遡ることができる。
何世紀もの間に、それは女たちだけの職業となった。
この即興の技に特に熟達し、この技の肉体的そして感情的なトラウマに耐えうる者は、儀式的嘆きを先導するために親族によって雇われてきた。
現在、マニ半島の村々には、ギリシャの最後の数名の職業的泣き女が住んでいる。
この国につきまとう村の高齢化と現在の経済難における困難は、職業的泣き女という死にゆく芸術の消滅の原因の一部である。このプロジェクトを行うにあたって私が個人的に目指すものは、私の文化と家族のはらむ悲しみの模造を見つめるための制作を進めつつ、先延ばしにされている自分の父への哀悼という到底できなそうにもないことである。
ある意味、これらのイメージ作品は、生命力、繁栄、そして親密さの滅びた理想を追悼するための媒体となる。私の強烈な悼みと職業的泣き女による戯曲化をつなぐことにより、ギリシャにおける死への儀式の自覚的な霊性を私は見つめている。
イメージが消失における物事の確認をどう行うのか、そして不在のものが創作を通してどう我々に力を与えるのかに私は関心を持っている。
写真はそれ自体が現実と非現実の間に存在するようになり、それを観る者がまだ現実になりえていないこと、つまりは別のかたちのリアリティを信じることを許している。
Bio | Ioanna Sakellaraki(イオアンナ・サケララキ)
1989年、アテネ生まれ。写真、ジャーナリズム、カルチャーを学んだ。彼女のイメージは、構築された幻想の空間、変身のもつ魔術的な潜在力、カメラがもたらすフィクションを思わせる。
彼女のアイデアは記憶と喪失を中心に展開し、また原型のオーラと個の重要性の曖昧さを持つ祖国のギリシャにも強いつながりをもっている。その作品は2018年にフランスでルヴァロワ賞、Urbanautica賞にノミネートされた。最近にはロイヤル・フォトグラフィック・ソサエティの奨学賞を受賞、マグナム財団のインゲ・モラス賞、アルルのPrix Voies Off、BMWアート&カルチャー・レジデンシー・パリにもノミネートされた。イオアンナはヨーロピアン・アーバン&カルチャー・スタディで修士を取得後、現在ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士号を取得中。個人的なプロジェクトの実施のほか、ロンドンのエージェンシーであるミレニアム・イメージズの提携フォトグラファーでもある。ガーディアン、テレグラフ、ゲッティ・イメージズなどのグローバル・メディアにも作品の一部をライセンスで提供している。
日本語翻訳:奥山美由紀