佐々木康写真集「XEPCOH ヘルソンーミサイルの降る夜に」のご注文受付を開始いたします。
市井の人々や兵士たちと時間を共にしながら、彼は日常と戦争のあわいを静かに見つめ、その記録を一冊の写真集として形にすべく、「戦禍のウクライナで126日、出会った人々を伝える写真集を作りたい」というクラウドファンディングプロジェクトを立ち上げ、多くの支援を受けました。
その制作プロセスの一環として、2023年にはウクライナを再訪し、90日の間に南部の街からザポリージャ、東部ドンバス地方などを撮影、帰国後にリマインダーズ・フォトグラフィー・ストロングホールドの「PHOTOBOOK MASTERCLASS」に参加し、さらに本作を深めていきました。
この写真集に写し出されているのは、破壊や惨禍ではなく、祈り、笑い、眠り、対話といった、人間の営みのかけらたちです。
既知の「戦争」のイメージへと回収されることを避け、名づけられぬ瞬間や、すれ違う気配を丁寧にとどめています。
ただ「そこに在る」ことに徹した視線は、人々の暮らしのすぐ先に戦争があるという現実を映し出し、それはまた、私たちの日常の延長線上にある世界でもあることを、そっと思い起こさせてくれます。
ぜひ、この写真集を手に取り、そこに息づく視線と時間を感じてみてください。
刊行を記念して、写真展「佐々木康写真展 『ХЕРСОН — ヘルソンーミサイルの降る夜に』」を開催いたします。
会期は 2025年11月15日(土)〜 11月30日(日)。
初日14:00からはオープニングレセプションおよびアーティストトークも行います。
皆さまのご来場を心よりお待ちしております。
「XEPCOH ヘルソンーミサイルの降る夜に」
「まるで、悪い夢を見ているようだ」
──それは、ミサイルの降る夜に、友人アンドリーと交わしたチャットの中で、彼が書いた一文だった。
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻から半年が過ぎた頃。ウクライナ南部の街には、毎晩のようにミサイルが飛来していた。
くじ引きのように、誰かのもとに突然やってくる苦難。その中心近くにいなければ、起きたこと自体を知ることすらない。あまりに非現実的で、本当はどこかに“正しい世界”──もう一つのパラレルワールドが存在しているのではないかとすら思えた。
8月の独立記念日、遠くから微かに防空警報のサイレンが聞こえる中、街の中心を流れる大きな川には、歓声をあげながら川に飛び込む子どもたち、川辺でくつろぐ家族連れの姿があった。
数日後、買い物で訪れた市場で、店員が言った。「昨晩はミサイル攻撃で建物が破壊されたり、車が燃えて、その音や消火作業で眠れなかった」と。そういえば夜中、遠くで音がしていたような気がしていた。
着弾して上層階が崩れたソ連式アパートを探して見に行くと、住人たちは片付けに追われていた。数日前の独立記念日のに、川の浅瀬でウクライナの国旗をまとった姿を写真に撮らせてもらった少年が、建物から段ボール箱に荷物を詰め、仲間数人と一緒に階段を降りてきた。荷物を車に積み終えると、再び箱を持って崩れた建物へと戻っていく。そのとき目が合った。私は「一緒に行っていいか」と手振りで伝えた。すると彼は、憔悴した表情で首を横に振り、階段を上がっていった。
しばらくして、元軍人らによって組織された義勇兵のグループを、友人を通じて紹介された。何度か同行するうちに受け入れられ、2ヶ月ほど寝食を共にした。2022年の夏、南部では反転攻勢が始まり、目標はヘルソン州の奪還だった。
滞在した町から約30km先には、ゼロラインと呼ばれる、ウクライナとロシアのいずれにも支配されていない交戦地帯が広がり、さらにその30km向こうにはロシア占領下のヘルソン市があった。
ある時、ゼロライン上の村で兵士たちはロシア軍のいる村に向けて迫撃砲を発射した。撃ち終えると、すぐにロシア側から反撃の迫撃砲弾が飛んできた。私たちは急いで誰かの家の地下室に飛び込んだ。砲弾が頭上で炸裂するなか、兵士の一人は、世界のどこかで誰かが投稿した車の動画をインスタグラムで見ながら、時間の経過を待っていた。地上に着弾するたびに、地下室には埃が充満し、彼は一瞬表情を歪めるが、すぐにスマートフォンの画面に視線を戻した。
またある時、少し後方にある無人の村──砲撃によって崩れかかった民家の裸電球に照らされた、その地下の一室では、簡易ベッドに横たわり、マッチングアプリで知り合った女性とチャットをしている兵士がいた。「街に戻る日曜日に、その女性に会えるのが楽しみなんだ」と話し、地下室への入り口で歩哨任務の交代までの数時間、まどろみながら眠りについた。
本書は、侵略戦争における被害の記録や加害の告発を目的としたものではない。
地平線まで広がる畑。美しいウクライナの風景。そのなかで、私たちとなんら変わらない人々が、食べ、笑い、眠り、泣き、戦い、祈り、逃げ、そして生まれ、死んでいく。
なぜ、こんな楽園のような場所で、こんな酷いことが起きるのか。
これは、私たちが生きる日常のすぐ先に、戦争があるという話である。
文:佐々木康
佐々木康写真集「XEPCOH ヘルソンーミサイルの降る夜に」
©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles
◎ページ数:240ページ
◎サイズ:270×242×27mm
◎言語:日本語
◎重さ:約870g
◎価格:8,000円(消費税込)
◎編集:薦田美奈子
◎デザイン:渡部周(ワタナベデザイン)
◎PD:岡本亮治(八紘美術)
◎印刷:八紘美術
◎製本:博勝堂
◎文/写真:佐々木康
◎特典:著者サイン入り + ウクライナから届いたギフト
Reminders Photography Strongholdを通じてご購入いただいた方には、ウクライナから届いた特別な特典を添えさせていただきます。
キーウ郊外・ブロヴァルイ地区の「ブロヴァルスキー第9リセエ(BROVARSKY LYCEUM No. 9)」
https://www.facebook.com/brovarsky.lyceum
の生徒たちが制作した、メッセージカードとリボンです。
カードには、「平和」や「戦場にいる父親の無事の帰宅」など、子どもたちそれぞれの願いが込められています。
そのひとつには、キーウ・ブロヴァルイ地区に住む12歳のアニータさんの言葉が綴られています。
「平和な空の下で歩きたいです」

これらの手配をしてくれたのは、ウクライナのアンナさん。
彼女は、海兵隊として戦地にいる夫と、25歳で前線に立つ息子を持つ母であり、教師でもあります。
ここに、彼女から届いたメッセージをご紹介します。
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こんにちは、私はウクライナのアンナです。 母として、子どもに対する気持ちを表したいのですが…とても難しくて言葉になりません。 すべての母親が、自分の子どもが健康で、危険な目に遭っていないと確信できることを願っています。 妻として、毎朝夫に朝食を作り、毎晩スマートフォンの画面ではなく、顔を合わせて「おやすみ」とキスしたいです。 教師として、子どもたちが学校で学ぶだけで、防空壕に入って座らなくていいように。 美しい音楽にだけ耳を傾け、恐ろしいサイレンに怯えることなく過ごせるように願います。 私たち皆に、家庭に、家族に、国に、平和がありますように。 人は愛するために生まれてきたのです。戦争のためにではありません。
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カードに描かれた絵のタイトルは「夢(ムーリヤ)」。 その名は、キーウの空港でロシア軍に破壊された世界最大の輸送機「ムーリヤ(Mriya)」にも重ねられています。
*メッセージカードは数に限りがあるため、先着30名様までとさせていただきます。何卒ご了承ください。
子どもたちが心を込めてつくったそのひとつひとつが、戦争のただ中に生きる人々の存在を確かに伝えるものとなるでしょう。
ご注文を頂き、お振込の確認が出来次第ご注文完了となります。その後、本が完成次第発送いたします。
ご連絡がなくお振込、決済の確認が出来ない場合はご注文は完了せず、自動的にキャンセルとさせて頂く場合があります。
尚、発送時にはとくにご連絡をいたしません。
※宅配便でのお届けとなります。ご希望の方は、下記フォームよりご注文ください。
フォームへの直接リンクはこちら → https://forms.gle/2UBKYp4mmx9U4PZV6
©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles
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©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles
©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles
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©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles
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プロフィール|佐々木 康
1972年生まれ。フォトジャーナリスト。1998年ポルポト死去 直後のカンボジア、インドネシアの暴動、フィリピンのゲリラ、パレスチナ 第二次インティーファーダの始まりなどを撮影。 2004年より講談社、クーリエジャポンの創刊から写真編集を担当、同時に ニューヨクタイムズ、フォーブス、FT、ワシントンポスト、Stern、TIMEな ど、主に海外のメディアでフリーランスとして写真を撮影してきた。