藤井ヨシカツ写真展「出撃アト五指に足らず」12/20 – 12/28
2025年12月の企画展として藤井ヨシカツ写真展「出撃アト五指に足らず」を開催いたします。
藤井は被曝3世としての視点から、誰も知ることのなかった歴史の証言や広島に生きてきた人々の軌跡、そして風化していく戦争の爪痕にあらためて眼を向け、後世へと伝える取り組みとして「Hiroshima Graph」シリーズを制作してきました。
その継続的な探求の中から生まれた新作「出撃アト五指に足らず」では、特攻兵器「回天」をテーマに、個人的な記憶と歴史の狭間に潜む問いを掘り下げています。祖父から聞いた「人間魚雷を作っていた」という曖昧な記憶を起点に、特攻兵器の実態、笑顔で並ぶ若き兵士たちの姿、そしてその背後に潜む社会の空気や個人の思いを見つめ直しています。過去を「尊い犠牲」として消費するのではなく、なぜそのような犠牲が生まれたのかを問い直し、現代に生きる私たちにとっての意味を考え続けることを目指した作品です。
また本展にあわせ、同名のアーティストブック『出撃アト五指に足らず』を刊行予定です。
写真展、アーティストブック、関連トークイベントについてはSNSを通じて随時お知らせいたします。ぜひ会場でご高覧ください。
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
「出撃アト五指に足らず」
子どもの頃、祖父から聞いた戦争の話 ―
「じいちゃんは原爆には遭うとらん。呉におったけえの。海軍よ。人間魚雷も作っとった。そりゃあ何を作りよるんか誰も教えちゃくれんが、設計図を見りゃあ何を作りよったか分かるわい。」
てっきり祖父は戦地に行ったか、あるいは原爆に遭ったのだろうと想像していたので、その答えには拍子抜けした。そしてむしろ、「海軍におった」と少し誇らしげに語る祖父の姿が、鮮明に記憶に焼き付いている。
実際のところ、祖父が人間魚雷「回天」の製造に関わっていた証拠はどこにもない。家族の誰も、そのような話を聞いたことはないという。ただ、祖父自身の口から「作っていた」と語られた記憶が私の中に残るだけだ。
お国のために命を捧げることが美徳とされた時代。権力者の思想と当時の社会の空気の中で、「特攻兵器」という恐ろしいものが生まれ、多くの若者の命が奪われた。
しかし戦後、私たちはその死を「尊い犠牲」として語り継ぐことが多く、そのまま正当化してしまう語り口に違和感を覚える。まずは、なぜそんな犠牲が生まれたのか、その原因を徹底的に見つめ直すことが欠かせない。戦争を放棄した現代の日本では当時の価値観は想像しにくいが、私はその原因を知り、問い続けたいと強く思う。
記録をたどる中で、特攻兵士たちが整列し満面の笑みを浮かべた集合写真を見つけた。その表情の意外さに驚かされる。さらに、特攻隊員は強制ではなく志願制だったことも知った。しかしそれは「名目上の自由」に過ぎず、見えない圧力の下で志願せざるを得なかった者も少なくないだろう。彼らの笑顔の裏にあったであろう本当の感情を思うと、戦慄を覚える。
一方で、祖父はその恐ろしい兵器をつくる側にいたかもしれない。彼は何を思い、どんな覚悟で手を動かしていたのか。ただ命じられるまま働いていただけなのかもしれないし、戦争の渦中にあった社会では、人が死ぬことの重大さが今ほど実感されていなかったのかもしれない。それでも、なぜ祖父は家族の誰にも語らず、幼い私にだけ話してくれたのか。祖父が亡くなった今では、もう確かめることはできない。
祖父の口から語られた記憶も、写真に写る特攻兵士たちの笑顔も、過去の出来事として片付けられるものではなく、今を生きる私たちへの問いかけである。多くの犠牲を生んだ原因を見つめ、反省を重ね、二度と同じ過ちを繰り返さぬよう誓うこと。それこそが、過去と私たちをつなぐ唯一の道であり、静かに胸に刻まれるべき記憶なのだ。
― 私はそう信じている。
文:藤井ヨシカツ
藤井ヨシカツ写真展「出撃アト五指に足らず」
◎会期:2020年12月20日(土)〜 28日(日)
13:00~19:00 会期中無休、入場無料
◎オープニングレセプション & アーティストトーク
2020年12月20日(土)午後2時~
※展示は午後1時よりご覧いただけます。
◎開催場所:Reminders Photography Stronghold Gallery
住所:東京都墨田区東向島2-38-5
(東武スカイツリーライン曳舟駅より徒歩6分・京成曳舟駅より徒歩5分)
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
©︎Yoshikatsu Fujii / Five Before the Fall
プロフィール|藤井ヨシカツ
写真を表現主体としたビジュアル・ストーリーテラー。記憶、家族、事件や歴史をテーマとした長期プロジェクトに取り組んでいる。
少部数限定の手製本による写真集を主な発表媒体とし、2014年パリフォト・アパチャー財団写真集賞ノミネート、2015年Self Publishing PHOTOLUX Award受賞、2018年The Anamorphosis Prize受賞。2024年COSMOS PDF AWARD受賞。
主な写真展にチョビメラ国際フォトフェスティバル(バングラデシュ, 2017年)、ジメイ・アルル国際フォトフェスティバル「Phantom Pain Clinic」 (中国, 2017年)、ブレダ・フォトフェスティバル「To Infinity and Beyond」(オランダ, 2018年)、PHOTO 2021「Not standing still: new approaches in documentary photography」(オーストラリア, 2021年)、KG+SELECT(日本, 2021年)、永春堂美術館企画展「Lived Happily Ever After」(台湾, 2022年)など。