佐々木康写真展「XEPCOH ヘルソンーミサイルの降る夜に」11/15 – 11/30
Reminders Photography Strongholdにて、佐々木康写真展「XEPCOH ヘルソンーミサイルの降る夜に」を開催いたします。
本展は、写真家・佐々木康が、2022年夏、ロシアによる侵攻下にあったウクライナ南部での126日間の滞在をもとに制作した写真集『ХЕРСОН — ヘルソンーミサイルの降る夜に』の刊行を記念して開催されるものです。
佐々木は、日々をともに過ごした市井の人々や兵士たちとの時間を通じて、日常と戦争のあわいにある風景を静かに見つめ続けました。そこに写し出されたのは、破壊や惨禍ではなく、祈り、眠り、対話といった人間の営み。既知の「戦争」イメージに回収されることを避け、名づけられぬ瞬間やすれ違う気配を丁寧にとどめています。
本作は、「戦禍のウクライナで126日、出会った人々を伝える写真集を作りたい」というクラウドファンディング・プロジェクトの支援を受けて制作が始まり、2023年にはリマインダーズ・フォトグラフィー・ストロングホールドの「PHOTOBOOK MASTERCLASS」に参加しながら、さらに深められていきました。
ただ「そこに在る」ことに徹したまなざしは、人々の暮らしのすぐ先に戦争があるという現実を映し出し、それがまた、私たちの日常とも地続きにあることを、そっと思い起こさせてくれます。
なお、会期初日の11月15日(土)には、オープニング・レセプションに続いてアーティスト・トークを開催します。
ゲストには、『クーリエ・ジャポン』創刊立ち上げ時に編集長として誌面を率いた古賀義章氏を迎えます。佐々木は当時フォトディレクターとして参画し、二人はその後も長く協働を重ねてきました。古賀氏は今回の写真集『ХЕРСОН — ヘルソンーミサイルの降る夜に』の制作やクラウドファンディングにも大きな影響を与えており、その関係性を背景に、この作品がどのように形づくられていったのかを語り合う場となります。

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles
「XEPCOH ヘルソンーミサイルの降る夜に」
「まるで、悪い夢を見ているようだ」
──それは、ミサイルの降る夜に、友人アンドリーと交わしたチャットの中で、彼が書いた一文だった。
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻から半年が過ぎた頃。ウクライナ南部の街には、毎晩のようにミサイルが飛来していた。
くじ引きのように、誰かのもとに突然やってくる苦難。その中心近くにいなければ、起きたこと自体を知ることすらない。あまりに非現実的で、本当はどこかに“正しい世界”──もう一つのパラレルワールドが存在しているのではないかとすら思えた。
8月の独立記念日、遠くから微かに防空警報のサイレンが聞こえる中、街の中心を流れる大きな川には、歓声をあげながら川に飛び込む子どもたち、川辺でくつろぐ家族連れの姿があった。
数日後、買い物で訪れた市場で、店員が言った。「昨晩はミサイル攻撃で建物が破壊されたり、車が燃えて、その音や消火作業で眠れなかった」と。そういえば夜中、遠くで音がしていたような気がしていた。
着弾して上層階が崩れたソ連式アパートを探して見に行くと、住人たちは片付けに追われていた。数日前、川の浅瀬でウクライナの国旗をまとい写真を撮っていた少年が、建物から段ボール箱に荷物を詰め、数人と一緒に階段を降りてきた。荷物を車に積み終えると、再び箱を持って崩れた建物へと戻っていく。そのとき目が合った。私は「一緒に行っていいか」と手振りで伝えた。すると彼は、憔悴した表情で首を横に振り、階段を上がっていった。
しばらくして、元軍人らによって組織された義勇兵のグループを、友人を通じて紹介された。何度か同行するうちに受け入れられ、2ヶ月ほど寝食を共にした。2022年の夏、南部では反転攻勢が始まり、目標はヘルソン州の奪還だった。
滞在した町から約30km先には、ゼロラインと呼ばれる、ウクライナとロシアのいずれにも支配されていない交戦地帯が広がり、さらにその30km向こうにはロシア占領下のヘルソン市があった。
ある時、ゼロライン上の村で兵士たちはロシア軍に向けて迫撃砲を発射した。撃ち終えると、すぐにロシア側から反撃の迫撃砲弾が飛んできた。私たちは急いで誰かの家の地下室に飛び込んだ。砲弾が頭上で炸裂するなか、兵士の一人は、世界のどこかの誰かが投稿した車の動画をインスタグラムで見ながら、時間の経過を待っていた。地上に着弾するたびに、地下室には埃が充満し、彼は一瞬表情を歪めるが、すぐにスマートフォンの画面に視線を戻した。
またある時、少し後方にある無人の村──砲撃を受けてボロボロになった民家の地下室では、簡易ベッドに横たわりながらマッチングアプリで知り合った女性とチャットをしている兵士がいた。「街に戻る日曜日に、彼女に会えるのが楽しみなんだ」と話し、地下への入り口で歩哨任務の交代を待つ間、まどろみながら眠りについていた。
本書は、侵略戦争における被害の記録や加害の告発を目的としたものではない。
地平線まで広がる畑。美しいウクライナの風景。そのなかで、私たちとなんら変わらない人々が、食べ、笑い、眠り、泣き、戦い、祈り、逃げ、そして生まれ、死んでいく。
なぜ、こんな楽園のような場所で、こんな酷いことが起きるのか。
これは、私たちが生きる日常のすぐ先に、戦争があるという話である。
文:佐々木康
佐々木康写真展「XEPCOH ヘルソンーミサイルの降る夜に」
◎会期
<東京>2025年11月15日(土)〜 11月30日(日)
13:00〜19:00 会期中無休/入場無料
◎オープニングレセプション & アーティストトーク
<東京>2025年11月15日(土)14:00〜
登壇者:佐々木康
ゲスト:古賀義章氏
司会進行:後藤由美
※オープニングおよびアーティストトークは14:00開始となります。
◎会場
<東京>Reminders Photography Stronghold Gallery
〒131-0032 東京都墨田区東向島2-38-5
(東武スカイツリーライン「曳舟駅」徒歩6分/京成「曳舟駅」徒歩5分)
◎佐々木康写真集「XEPCOH ヘルソンーミサイルの降る夜に」のご注文受付中
https://reminders-project.org/ja/xepcohkhersononnightsoffallingmissilessalejp/

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles

©︎Ko Sasaki / XEPCOH – Kherson: On Nights of Falling Missiles
プロフィール|佐々木康(写真左)
1972年生まれ。フォトジャーナリスト。1998年ポルポト死去 直後のカンボジア、インドネシアの暴動、フィリピンのゲリラ、パレスチナ 第二次インティーファーダの始まりなどを撮影。 2004年より講談社、クーリエジャポンの創刊から写真編集を担当、同時に ニューヨクタイムズ、フォーブス、FT、ワシントンポスト、Stern、TIMEな ど、主に海外のメディアでフリーランスとして写真を撮影してきた。
アーティスト・トーク
ゲストプロフィール|古賀義章(写真右)
1964年佐賀県生まれ。1989年講談社に入社し、週刊誌記者・編集者として活動。オウム真理教事件や阪神・淡路大震災をはじめ、国内外の事件・災害を取材。2005年には国際情報誌『クーリエ・ジャポン』を創刊し編集長を務める。世界79カ国132人が参加した写真集『This Day of Change』を企画・プロデュース。東日本大震災の直後には、世界各国14人のフォトジャーナリストによる写真を配信した「311 Tsunami Photo Project」を手がけた。2010年以降はインドを拠点に活動し、環境教育やジェンダーをテーマとした出版企画を多数手がける。著書に『普賢岳 OFF LIMITS』『場所―オウムが棲んだ杜』など。