REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #7 FIELD TRIP

RPS写真集図書室ブックレビュー、写真家の幸田大地君が今回取り上げるのはこちら。
今年度のライカオスカーバルナック賞受賞、Martin KollarのField Tripです。
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Martin kollar
FIELD TRIP

<注意>
最大限この写真集の味わいたかったとしたら、このレビューを読む前に実際に手にして見てみる事をお勧めします。一つ言える事はこの写真集はそういう種類の写真集であるということです。

過去多くの写真家やジャーナリスト、アーティストがイスラエルとパレスチナの問題をテーマとして扱ってきました。結果として、イスラエルやパレスチナという言葉は記号化し、概念は闘争のシンボルとして社会の中に埋め込まれ、時には政治的に利用されてきました。
このような経緯の中で、私達は断片的でいびつなイスラエル・パレスチナ像を自分達のデータベースに保存してきたでしょうし、その事に多くの人は無関心であったのではないでしょうか。

撮り尽くされてきたと考えられる、テーマを扱ったこの FIELD TRIP が Leica Oskar Barnack Award 2014 を受賞しました。
この受賞が意味するのは、単純なテーマ選びとして「何を撮るのか」ということが、プロジェクトにおいて最も重要な事ではないという事を示しています。
この FIELD TRIP は、写真というものの性質とその用い方について、シンプルでありカラー写真のある一つの伝統を明確に引き継ぐ手法として高い完成度を保っています。非常にコンセプチュアルな仕事であると同時に、いかに記号として機能するのかと言う事に対する高度な理解が伺えるのです。

この作品の目的は必ずしも、作家側からの意図として明確には示されていません。
ただあきらかに、過去からの延長もしくはその集積の上に作られることに自覚的な作品であり、それは「何を撮るか」と言う事以上に、どう撮るのかということへの関心を示し、重要性を提起しています。

作品一点一点が個別に重要であるのかと言う事を言えば、この一冊において言えば、必ずしもそうではないと言う事が言えるでしょう。
言葉にするのは簡単ではありませんが、端的に表現するとすれば、個々の写真は『面白い』ものです。むしろ、その表面的な「印象」で判断されてしまいがちな作品と言えるでしょう。ただ、それは、写真が目で見える事についての話をしているという、時代錯誤とポストモダン以降の写真から切り離されてしまった人々の言い訳に聞こえます。

また、感性の問題として、面白いではなく、『不気味』と捉える人もいるでしょう。
つまり、それは言葉のアウトプットに過ぎないのであり、そうしたものはこの作品において余り重要ではないといえます。あくまでも、意識の中に生じてくるズレやエラーを鑑賞者がどのように取り込みながら、再編成するのか。このプロセスがこの種類の作品の肝であるといえるでしょう。イメージをどのように用い、どのベクトルに向かい重ねていくのかという判断するスキルも、この作品の完成度に大きく関係しているでしょう。

アーテイストのJRがパレスチナでやったことは、ある意味では写真が負け続けてきた状況下におけるブレークスルーでした。また、写真を受け取る側が写真に写る側を、眺め消費する状況が作り出した失敗に対する嘲笑でした。あのパレスチナ人たちのアップの笑顔は、あきらかに“私達”に向けられていたのです。今回の FIELD TRIP は、あまりにも大きくなってしまった問題にたいして、いかに関わることが求められているのかという事への、考え方の変更可能性を示しているのかもしれないと感じます。
社会学者がフィールドワークで、知識を武器に物事への理解と考察を深めるための基本を獲得するように、写真家はフィールドトリップで、歴史への理解を携え、写真家として何を見る事が必要なのかの基本を手に入れるべきなのかも知れません。

幸田大地(写真家)

これまでのフォトブックレビューはこちら
◎reminders photobook review #1 NUOTRAUKOS DOKUMENTAMS / PHOTOGRAPHS FOR DOCUMENTS レビュアー:後藤勝(RPS所長)
◎reminders photobook review #2 ASYLUM OF THE BIRDS レビュアー:幸田大地(写真家)
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◎reminders photobook review #4 Blind Date レビュアー:八尋伸(写真家)
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◎REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #6 FLOCK レビュアー:飯島望美(写真家)