REMINDERS PHOTOBOOK REVIEW #16 LIFE IS ELSEWHERE

RPSで企画展が予定されていて、現在写真集制作プロジェクト進行中、在京都の写真家・松村和彦くんがブックレビュー初登場です。彼が取り上げるのはSohrab HuraのLife Is Elsewhere.

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「写真があってよかった」。
Sohrab HuraさんのLife is Elsewhereをあらためて写真集で見て思った。心の病を抱えた母との重苦しい生活。旅や友人、美しい女性を通じて輝きを取り戻していく人生。そうしたすばらしい時間に写る光と影。そして、再び見つめる母との関係。それらを写真に撮り、並べ、再び見つめる。作者が行ったに違いない一連の行程はきっと作者を救ったと思う。
もう一つ、写真があってよかったと思うのは、それらに読者の僕たちが深く触れることができるからだ。家族の個人的な問題から立ち直ること自体は多くの人が経験することだと思うが、普通は記録されない。けれども、この写真集では過去の一瞬一瞬が閉じ込められている。読者は生々しい「その時」に出合える。しかも、心に入り込んでくる写真で。
ページをめくっていくことで作者の人生を伴走しているような感覚にとらわれた。そして、最後のページに選ばれた写真を見た時には涙がこみ上げてきた。

この写真集は、写真のそんなすてきな魅力に浸れる本だと思う。

松村和彦(写真家)

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※限定部数なので買うことができなかったという方は是非、ウェブサイトを見てみてください(かなりの写真枚数を見られます)。
http://www.magnumphotos.com/C.aspx?VP3=CMS3&VF=MAGO31_10_VForm&ERID=24PV7C0X4S

RPSより補足↓:
Sohrab Huraが書いているステートメントの日本語訳も素晴らしいので是非読んでみて下さい。

あらゆるものが疑わしく不確かで、分析と疑惑の対象になる。進歩と革命。若さ。母性。人間でさえも。そして詩も……。
「生は彼方に」‒ミラン・クンデラ

私の作品である「生は彼方に」は、私の生活と、家族と、愛と、友人と、旅の記録である。今にも消えそうなそのすべてを経験することを、心から望んだ記録である。ある意味、私自身の人生と世界とを、結びつけようとしているのかもしれない。私の存在をその世界のなかに見い出したいと願っているのだから。「生は彼方に」は、矛盾と疑惑と理解と笑いと忘却に満ちた一冊である。完全に分解してしまったかのように見える私の人生の断片を記録することによって、自分自身に問いかけようとしているのだ。人生と呼ばれるこのすばらしいジグソーパズルを、いつの日かきっとつくり上げられるはずだ。この旅はきっと、私と私の人生とを仲直りさせてくれるに違いない。

1999年の夏、母に妄想型統合失調症の診断が下った。
私は17歳だった。思い返すと、医師たちは、母が以前から症状を示していたはずだと言った。誰も気づかなかったその症状は、父との離婚によって突如として引き起こされ、そして悪化していった。年月を重ねるごとに、家族の絆は崩れ落ちた。母があまりに来客を恐れたため、我が家を訪れる人もいなくなった。残ったのは、もはや存在しない人生の痕跡のようなものだけだった。それからの数年は、世界から隠れることに費やした。母にとっての原因は妄想症で、私にとっては母の患った病への困惑と怒りが原因だった。しかし、数年を経て気づかされたのだ。母は、私を愛し続けてくれていたということに。
今振り返ると、思っていたよりもずっと強く、私の存在や、感じること、見るもの、考えるものすべてが、私と母との関係に通じているとつくづく思う。私はこの作品を通し、私のこれまでの人生における母との関係を紡ぎだそうと思う。

日本語訳:オオニシテッペイさん
※RPSでは一旦お取り扱いがありましたが、現在売り切れております。今後再入荷される場合にはまたみなさまにいち早くお知らせいたします。

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