千賀健史 写真展「The Suicide Boom」11/3〜11/25まで

Reminders Photography Stronghold 2018年度企画展第4弾は、千賀健史 写真展「The Suicide Boom」です。本作品は2018年9月5日からオランダで開催されたBredaPhoto Festivalにて初披露されました。BredaPhotoでの本展示はRPSの後藤由美が外部から招かれたキュレーターの一人として参加し、写真祭のテーマ「無限の彼方へ」にあわせ、フェスティバルの公式なコミッションプロジェクトとして企画発足から1年ほどかけて取り組まれたもので、並行して写真集制作も続けられてきました。

過去の群発自殺のきっかけとなった自殺報道で用いられた女性のポートレイトをウイルスのように見えるまで拡大、プロジェクターにて現代の女性に投影することで過去から現代まで日本人の中で自殺のイメージが受け継がれている様を撮影した写真 (©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom)

展示作家の千賀健史はこれまでに2016年8月に写真家Zhao Qianを講師に迎え開催された、第4回実験的ワークショップアトラスラボ「コンセプトや現実に裏付けされた抽象的で超常的な写真芸術表現」にて写真集「happn」を制作。また、同年12月に開催されたPhotobook Master Classにて「Bird, Night, and then.」を制作しました。
本展示はBredaPhotoの公式なコミッションプロジェクトとして着手した作品で、オランダで初披露後間もなく日本で御覧頂ける展示となります。並行して取り組まれた写真集も、BredaPhotoではほぼ完成形となるダミーが披露されましたが、今回はその写真集の完成刊行を記念する展示にもなります。皆様ぜひご高覧ください。

◎会期:2018年11月3日(土)~ 2018年11月25日(日)
※初日3日のみ午後6時からのオープンとなります。お気をつけください。
その他会期中は無休、午後1時から午後7時まで。入場無料。

◎オープニングレセプション:11月3日(土)午後6時から

◎関連イベント:実験的ワークショップアトラスラボ「過去の事象検証と再構築」定員10名程度(先着順)RPSでは自分の写真の本質と向き合う試みをする実験的なワークショップを不定期で開催しています。今回はその第7弾。会期中の4日間に開催します。講師は本展「The Suicide Boom」の作家、千賀健史、RPSキュレーター後藤由美。その他詳細はこちらをご覧ください。

◎写真集「The Suicide Boom」の詳細はこちらから

◎会場:Reminders Photography Stronghold 東京都墨田区東向島2-38-5
東武スカイツリーライン曳舟駅より徒歩6分、京成曳舟駅より徒歩5分

The Suicide Boom

2011年8月、友人が失踪した。 2週間後に発見された彼はその間、青木ヶ原樹海や東尋坊といった自殺の名所と呼ばれる場所を訪れていた。当時23歳の彼は死に場所を探していたのだ。 友人や家族の支えがあって、その後元気を取り戻していくかに見えた彼は結局2015年8月にこの世を去った。誰にも相談せず、何も残さず。 手段はその頃世間で話題になっていた自殺方法だった。苦痛なく死ねると喧伝されるその方法を、もし彼が知らなければそれは起きなかったのではないだろうか?
少なくとももう少し時間の猶予を作る事が出来たのではないだろうか。

私たちの心理はそれに影響を与える”マインドウイルス”によって時にその命をも奪われている。 1774年にゲーテが”若きウェルテルの悩み”を発表してから、若者の間では小説の主人公を模倣した自殺が相次いだ。
その結果、この作品はいくつかの国で発禁処分とされている経緯がある。
日本でも1700年代初頭に近松門左衛門による”曽根崎心中”などの浄瑠璃により心中が流行、幕府がその上演を一切禁じたことがあった。 まるで伝染病のように広がる心中を当時、心中伝屍病と呼んだ。 歴史は繰り返し、その後も藤村操や芥川龍之介の自殺、坂田山心中などによって自殺への憧れにも似た感情が煽られ続けている。 それはまるでウイルスのように人の脳から脳へ社会の間で広がっているのだ。

1933年に大島の三原山で起きたある1人の自殺は当時のメディアによってセンセーショナルに報じられた。美しい女性による自殺であること、付添人を伴った類を見ない形式であったこと、天国へいくのだという彼女の言葉、死体を残さず煙になるという神秘性。それら全てが社会の関心を大いに集める事となった。 その結果、その年、三原山では1年間に944名が同様の自殺を試みた。そのうち30歳以下の若年層が占める割合は実に95%であった。 観光客は前年の50%増しとなり、年間15万人が自殺の現場を見に訪れた。そして、この地 には”自殺の名所”というイメージが生まれ、その後3年間ほどは非常に多くの自殺志願者を 引き寄せる結果となった。

今ではもう自殺の場所とはされていない三原山だが、世界で最も知られている自殺の名所 が日本にある。青木ヶ原樹海である。 そしてこの地が自殺の名所と世間的に認識されだしたのは1960年に松本清張の小説であ る”波の塔”が出版されてからだという。 それまでもたびたび自殺は行われていたが、小説や同年に公開された映画によって描かれた樹海でまさに自殺しようとする美しい女性のシーンは一部の人にとっては魅力的な選択 肢のように見えたのだろう。

1974年、社会学者のDavid P. Phillipsによってこれら模倣自殺を引き起こす事象に”ウェルテル効果”という名前がつけられた。 2000年にはWHOによって”自殺を予防する自殺事例報道のあり方”が発表される。つまり、自殺報道ガイドラインである。 “自殺の連鎖を引き起こす”とWHOが勧告しているガイドラインでは写真や遺書の掲載、手法や場所についての詳細を報じる事などがあげられるが、当時から現代に至るまで人々の関心を集める著名人の自殺や話題性のある自殺においてそれらは何度も報じられている。 岡田有希子の自殺は報道によってユッコシンドロームを引き起こし、新小岩駅は報道とインターネットミームによって自殺の名所となった。 自殺者には後続を生む意図はなく、それは残された者達の間で生まれている。

自殺に付随する言葉や物語は形を変えて広まり、人々が困難に陥った時の行動に影響を与 えている。 ”死んで詫びる”、”天国で結ばれる”、”家族に迷惑”、”死んだ方がマシ”、”後悔させてやる”、”生まれ変わる”、”生きる意味”、”死ぬ権利がある”、などなど。 どこかで耳にした言葉を繰り返しているだけではないだろうか?そうでなかったとしても、残された道は自殺しかないのだろうか?
脳の成熟度合いにおいて若者は衝動的な行動をとりやすく、模倣自殺の多くは若年層である。また、現在彼らは他の年代層に比べてインターネットに身近であり、見えざる群衆の声に親近感を覚えている。人々に自殺を連想させ、それを行わせたがっている”自殺のマイ ンドウイルス”にとって彼らは格好の餌食なのだ。”死ね”という言葉を日常的に使う一部の者たちはその言葉の魔力に気づいているだろうか。

過去から現在に至るまで鉄道自殺がプラットホームに立つ人へ自殺を繰り返し連想させている(©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom)

実際に行われたVRによる安楽死体験から、その際に使用された穏やかで美しいイメージと死を結びつけていた行為についての視覚的検証(©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom)

インターネットと同様にテクノロジーの発展は映像からの感情解析を可能とし自殺予防の 技術を作り、脳へのインプラントで自殺願望を消去することを目指し、3Dプリンターで作られる安楽死装置による死の配布も行おうとしている。魅力的なのはどの技術だろう? 精神的に不安定な状態にあり、”死にたい”と”生きたい”の狭間にあって、死が匂わせる”確 実な終わり”は多大な誘惑となっている。 日本人は時に必死に生きることを恥と考えることがあるが、必死に生きることは決して恥ではない。

問題となっているのは苦痛である。精神的、身体的、経済的、人々は苦痛から逃れたいだけである。 求めているのは死ではない、苦痛からの解放である。その手段として簡潔かつ明確なものが死であっただけなのだ。 死ぬことが必ずしもダメだとは言わないが、生きていなければ全ての可能性はない。 まずは私たちがどのような影響を自分以外から受けているのか、”自殺のマインドウイル ス”という敵を認識することがワクチンとなりはしないだろうかということを、このプロジ ェクトを通じて私は考えている。

以下引用

自殺についての5つの誤解

1.「『死ぬ・死ぬ』という人は本当は自殺しない」 – 自殺した人の8割から9割は実際に行動に及ぶ前に何らかのサインを他人に送ったり、 自殺するという意思をはっきりと言葉に出して誰かに伝えている。

2.「自殺の危険度が高い人は死ぬ覚悟が確固としている」 – 自殺の危険の高い人は「生」と「死」の間で心が激しく動揺しているのが普通です。絶

望しきっていて死んでしまいたいという気持ちばかりではなく、生きたいという気持ちも同時に強いということです。

3.「未遂に終わった人は死ぬつもりなどなかった」 – 自殺の危険の高い人でも、その心の中には「死にたい」という気持ちと「助けて欲し

い」という気持ちの2つの相反する気持ちが揺れ動いているのであり、それが自殺行動にも反映されているのです。

4.「自殺について話をすることは危険だ」 – 自殺したいという絶望的な気持ちを打ち明ける人と打ち明けられる人の間に信頼関係が

成り立っていて、救いを求める叫びを真剣に取り上げようとするならば、自殺について率直に語り合うほうがむしろ自殺の危険を減らすことになります。

5.「自殺は突然起き、予測は不可能である」 – 一見最近の事件が原因のように見えても、それは引き金になっただけに過ぎないことが 多いのです。一般に、自殺の動機は深刻で長期にわたる場合が多いのです。

引用元:東京都福祉保健局・東京都立中部総合精神保健福祉センター

WHOによる自殺報道ガイドライン 2008年版 概要
●  機会あるごとに公衆に自殺に関する知識を与える
●  自殺をセンセーショナルにする言葉や陳腐化させる言葉を使わず、また問題に対する解決策のように表現しない
●  自殺に関する話題を目立つように配置したり、過度に繰り返したりしない
●  既遂した自殺や自殺の試みの方法について詳細な説明をしない
●  自殺既遂や自殺の試みがなされた場所についての詳細な情報を提供しない
●  見出しの言葉遣いに注意する
●  写真や動画の利用には注意を払う
●  有名人の自殺を報道する際には特に気を配る
●  自殺により先立たれた人に対して十分な配慮を見せる
● 助けを求める場所についての情報を提供する
● メディア関係者自身も自殺に関する話題に影響されるということを認識する
引用元:wikipedia

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作家プロフィール
千賀健史 1982年滋賀県生まれ。大阪大学卒業。卒業後ファッションフォトグラファーのアシスタントとして上京、 その後様々なワークショップを受けドキュメンタリーの手法による作品作りに取り組む。

2018 BredaPhoto Festival 展示
2017 Kassel Dummy Award “happn” , “Bird,Night,and then” ショートリスト選出
2017 第16回写真「1_WALL」グランプリ
2016 清里ヤングポートフォリオ2016 4点収蔵
2016 Life Framer “HUMANS OF THE WORLD” ショートリスト選出
2016 Tokyo International Foto Awards Book:Documentary部門 Bronze

 

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom

©︎Kenji Chiga / The Suicide Boom