【クローズアップRPSメンバー連載コラム】写真家・岡田将 第四回(最終回)「宣伝と展示」

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「宣伝と展示」

写真の編集を終えた私はカメラメーカー ニコンの若手作家向け公募展、Juna21(ユーナ21)へ応募した。数週間後に入選の通知が届き、入選の副賞としてニコンサロンで展示をする権利を得ることができた。展示が決まったと同時に頭をよぎったのは子供の頃、経営者である父に言われた言葉だった。「成功したければ、既存のシステムを革新的に変えるか、人がやらないことをやるか、そのどちらかだ」

今回はあらゆる美術館・博物館に展示案内状の設置依頼をした。その上で関係者への配布依頼をした。ギャラリーへの配布も含めて今回は宣伝に費やしたエネルギーの方が多かった。宣伝しない展示は人が来ない。展示に人が来ないと作品が人目に触れない。人目に触れないと仕事や作品など今後の流れが生まれにくい。配れば必ず来てくれるかといえばそんなことはないが、のちのち結果を生むこともある。0%を1%に上げる作業が大事だと考えた。

写真のプリントはインクジェット紙ではなく、鉱物の光沢感を出すためにラムダプリントと呼ばれるプリント方法を選択した。解像力はインクジェット紙の方が高いが、今回は鉱物特有の光沢感を再現する方を優先した。保存性は落ちるが、ガラスは入れないことにした。とにかく自分の作品が現段階で想像できる理想に近づくよう動いた。

額装に関して。美術館や博物館、ギャラリーなどで素晴らしいと感じる展示は大抵が額装・ライティング・展示方法を徹底していた。写真家はもっと額装にこだわっていいはずと考えていた私は、油彩画に使われる額装を使用することにした。将来的には美術館のみではなく、博物館や書斎、アンティークショップなどで展示することも念頭に置いていたのに加え、1点だけを購入してもらって部屋に飾っても見栄えするよう油絵に使われるアンティークな雰囲気の漂う額縁を使用した。ただ装飾された額を選ぶわけでなく、ただ高い額を選ぶわけでなく、自分の写真をより良く見せるために、理想とする場所で展示するときのことを想定しながらそこに見合った額を選べるかどうか。それが重要だと考えた。ある額装屋のベテラン店員が「額装は服のコーディネートと同じですよ」と言っていた。フォーマルにするのか?カジュアルにするのか?ゆったりさせるのか?ぴったりさせるのか?全ては額とマット次第だと語っていた。たったひとつの正解などはなく、あとは環境と好みの問題だということだ。非常にわかりやすい例えだと思った。大抵の物事はは食事と服装に例えることができる。

いくつものアクシデントには見舞われたものの、無事に写真展を開くことができた。幸いにも写真展は概ね評判のうちに終わった。長々とコラムを書かせていただいたが(そしてやたらと遅い更新だったが)編集作業とステートメントの大切さが身にしみた1年だった。今後は展示のための企画書などを書いていくつもりだ。最後に、コラム連載という貴重な機会を与えてくださったRPSに感謝します。

それでは、また。

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【クローズアップRPSメンバー連載コラム】写真家・岡田将 第二回「砂粒と写真」
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作者のプロフィール
岡田 将(オカダ ススム)
1984年東京都葛飾区生まれ。2006年日本写真芸術専門学校フォトアートコース菊池ゼミ卒業。07年日本写真芸術専門学校フォトアートコース菊池ゼミ研究科修了。
写真展に、12年「白い痕跡」(Juna21新宿ニコンサロン、Juna21大阪ニコンサロン)がある。


【このコラムについて】
RPSにはメンバーシップ制度があり内容にあわせて特典があります。メンバーシップの制度も2012年度の発足当時からありますが、有効な利用をしてくださってる写真家さんによるコラムの連載を不定期で始めることにしました。連載時期はメンバーシップの特典(RPSキュレーター後藤由美によるメンターシップ)を利用して結びついた成果がなんらかの形で露出する機会、例えば、写真展や本の刊行などをするタイミングにあわせて行う予定です。メンターシップを担当するRPSキュレーターの後藤由美が有効にメンターシップを利用され成果が著しいと手応えを感じた写真家さんをピックアップして連載のキュレーションをしていきます。その連載第一弾は11月1日からJUNE21枠で新宿ニコンサロンで展示が始まる岡田将くん。

コラムの内容は自由ですが、この一年で取り組んだことを振り返って写真数点とともに文章にしてもらっています。